第78話 切って切って切りまくったその次は
文字数 1,400文字
「理屈は分かるわ。でも、これだと小さすぎる。ほら」
と、森君の腕を取り、その手のひらに朱美ちゃんが持ってきていたプラスチック製のカードを置いた。
「ね? これくらいのを扱わないとだめ」
「う、うん」
「それにさ、小さなトランプを隠せたって、お客さんはあんまり驚いてくれないかも。小さいのが隠しやすいのは当たり前だから」
「……」
「こういう普通サイズのを隠して、消えたように見せてこそ、驚きが大きいってものだよ」
「あのさ、佐倉」
「うん? 何か質問?」
「いつまで触ってるんでしょーか」
言われてはっと気が付いた。私、ずーっと、森君の右腕を掴んだままだった。急いで引っ込める。
「ごめんごめん。つい夢中になって。あはは」
照れ隠しに笑ってごまかし、そのまま朱美ちゃんの方に声を掛ける。
「朱美ちゃん、このカード、森君に貸していい?」
「いいよ~。必要なら、こっちの紙のを返すけど」
「今のところ大丈夫――というわけだから、これでやってみて」
森君は「何がというわけなんだか」とぶつぶつ言いつつ、リフルシャッフルをやった。最初は不慣れなせいか、重ねるのに失敗してほとんどばらまいてしまったけれど、二回目にはもう成功。力の入れ加減が分かったみたいだ。
「うん、やっぱりこの大きさのやつがぴたっと来る」
「よかった。プラスチックだから、割れちゃうこともあるので、注意してね」
「了解。借り物なんだし、慎重に扱う」
そういった直後のシャッフルは失敗してた。安定性に欠けるみたいね。
ちなみに相田先生もやってみた。大人ということを差し引いても、手が大きくて、マジシャン向きなんだけれど、一度うまくいっただけでやめてしまった。飽きっぽいんだから、もう。
「リフルシャッフルは各自、お家でも練習しておいてね。今日はまだ少し宿題があるから次に進みます」
「宿題といわれると、気が重くなる~」
机にもたれかかってつちりんと朱美ちゃんが、ぐた~っとなってる。
「じゃあ、シュウさんからの課題って言えばいい? 今のところ、いついつまでにできるようになっていなくちゃだめってことはないんだよ」
「シャッフルならまだ簡単だろうけど、その先に進むというのは」
「まあまあ。とにかく、見てみてよ」
私は机四つを集めた即席の台を前に立ち、みんなに集まってもらった。これからスプレッドとターンオーバーを披露する。麻雀マットでほんとにうまくできるのかは、前もって試しておいたから大丈夫。
それでも念のため、私は朱美ちゃんに貸していた自分のカードを返してもらって、使うことにした。やっぱり、馴染んだ物の方が安心して臨める。
「スプレッドとターンオーバーというテクニックをやってみます。これら二つは、マジックそのものの技術ではありません。でも、マジックを魅せるためには身に着けておいた方がいいものだから」
喋りながらカードを軽く切って、そして整える。きちんと揃ったカードの束を、マットに置き、右手を上からのせた。そのまま右手を横に滑らせるように移動すると、カードも少しずつずれて横へ横へと伸びていく。
「はい、これがスプレッド。そしてこのスプレッドの端っこを、ちょんと持ち上げて、カードを返すと……」
裏向きに広がっていたカードが、今度は連続してあっという間に表向きに。
「これがターンオーバーです」
つづく
と、森君の腕を取り、その手のひらに朱美ちゃんが持ってきていたプラスチック製のカードを置いた。
「ね? これくらいのを扱わないとだめ」
「う、うん」
「それにさ、小さなトランプを隠せたって、お客さんはあんまり驚いてくれないかも。小さいのが隠しやすいのは当たり前だから」
「……」
「こういう普通サイズのを隠して、消えたように見せてこそ、驚きが大きいってものだよ」
「あのさ、佐倉」
「うん? 何か質問?」
「いつまで触ってるんでしょーか」
言われてはっと気が付いた。私、ずーっと、森君の右腕を掴んだままだった。急いで引っ込める。
「ごめんごめん。つい夢中になって。あはは」
照れ隠しに笑ってごまかし、そのまま朱美ちゃんの方に声を掛ける。
「朱美ちゃん、このカード、森君に貸していい?」
「いいよ~。必要なら、こっちの紙のを返すけど」
「今のところ大丈夫――というわけだから、これでやってみて」
森君は「何がというわけなんだか」とぶつぶつ言いつつ、リフルシャッフルをやった。最初は不慣れなせいか、重ねるのに失敗してほとんどばらまいてしまったけれど、二回目にはもう成功。力の入れ加減が分かったみたいだ。
「うん、やっぱりこの大きさのやつがぴたっと来る」
「よかった。プラスチックだから、割れちゃうこともあるので、注意してね」
「了解。借り物なんだし、慎重に扱う」
そういった直後のシャッフルは失敗してた。安定性に欠けるみたいね。
ちなみに相田先生もやってみた。大人ということを差し引いても、手が大きくて、マジシャン向きなんだけれど、一度うまくいっただけでやめてしまった。飽きっぽいんだから、もう。
「リフルシャッフルは各自、お家でも練習しておいてね。今日はまだ少し宿題があるから次に進みます」
「宿題といわれると、気が重くなる~」
机にもたれかかってつちりんと朱美ちゃんが、ぐた~っとなってる。
「じゃあ、シュウさんからの課題って言えばいい? 今のところ、いついつまでにできるようになっていなくちゃだめってことはないんだよ」
「シャッフルならまだ簡単だろうけど、その先に進むというのは」
「まあまあ。とにかく、見てみてよ」
私は机四つを集めた即席の台を前に立ち、みんなに集まってもらった。これからスプレッドとターンオーバーを披露する。麻雀マットでほんとにうまくできるのかは、前もって試しておいたから大丈夫。
それでも念のため、私は朱美ちゃんに貸していた自分のカードを返してもらって、使うことにした。やっぱり、馴染んだ物の方が安心して臨める。
「スプレッドとターンオーバーというテクニックをやってみます。これら二つは、マジックそのものの技術ではありません。でも、マジックを魅せるためには身に着けておいた方がいいものだから」
喋りながらカードを軽く切って、そして整える。きちんと揃ったカードの束を、マットに置き、右手を上からのせた。そのまま右手を横に滑らせるように移動すると、カードも少しずつずれて横へ横へと伸びていく。
「はい、これがスプレッド。そしてこのスプレッドの端っこを、ちょんと持ち上げて、カードを返すと……」
裏向きに広がっていたカードが、今度は連続してあっという間に表向きに。
「これがターンオーバーです」
つづく