2話 ある男子の焦燥
文字数 4,057文字
旅の初日、自己紹介の段階では第一印象で気になったのはサヨちゃんだった。可愛いらしい見た目にほんわかした雰囲気の彼女はまさしく癒し系。あぁ好きだな、と素直に思った。
自己紹介を終えるとスタッフに案内されて琵琶湖博物館へ移動する。博物館内のある展示スペースに入ると、広めの空間いっぱいにマンモスの骨格が飾られてあった。
「でかっ、かっけー!」
思わずその大きさに心惹かれ、思ったことが飛び出した。呟き程度の声のはずだがすぐ近くにいたミナミちゃんには聞こえてしまったらしい。彼女は静かに笑って直角に曲げた手首を彼女の額の位置から僕のところまで持っていく。少し背伸びをして微笑む彼女はどこか、コスモスの花のように思えた。
マンモスの骨格模型の前には机が設けられ、7枚の封筒が置かれている。いよいよ旅の日数を決めるチケットの抽選が始まる。
各々が緊張した面持ちで封筒を手に取っていく。僕も緊張しながら封筒を取った。立ち位置に戻って中身を確認すると、恋チケットは6枚入っている。つまり3週目まで旅を続けられるようだった。旅が終わるのが来週じゃなかったことに僕は一旦胸を撫で下ろしたが、この中の誰かは3週目にはもういないことを考えると少し寂しく思った。
チケットを抽選した後は博物館に併設されている水族館を皆で見学した。魚は好きかとか、好きな食べ物はとか、血液型はとか皆で雑談をしながらフロアを回る。
「めっちゃ可愛いー!」
琵琶湖博物館一の人気者らしいアザラシの水槽の前でアヤカちゃんは一段とテンションを高くしている。アヤカちゃんは明るくて、話すのも上手い。初対面の僕たちの距離を縮めて、場を盛り上げてくれている。はしゃぐアヤカちゃんを見て、良い子だな、と素直に感じた。
「綺麗な目……」
ふと聞こえたのは小さな呟き。それはミナミちゃんのものだった。愛想よくこちらを見つめているアザラシに、ミナミちゃんもじっと見つめ返している。なんだか風に揺れるコスモスみたいだ。
そろそろ出る?誰かが問うと、そうだねと言う返事と共に誰からともなく出口へ向かって歩き始めた。帰り道でも趣味とか部活とか、初対面ならではの雑談は続いた。女子バレー部なんだとミナミちゃんは楽しそうに話している姿に、この子は本当に花が咲くように笑うなとつられて僕も頬が緩んだ。
水族館を後にした僕たちはロケバスに乗って琵琶湖のほとり――バーベキューができるエリアに到着した。
「良い眺めー!」
バスから降りて誰かが言った。
「うわでっかぁ……」
僕もバスを降りると博物館の骨格模型を見た時と同じような言葉が出る。眼前に広がる琵琶湖は思っていたよりも広かった。またミナミちゃんはくすくす笑うのかなと彼女を目で探してみると、彼女の花のような笑顔は他のメンバーに向けられていた。
スタッフはバーベキュー用の機材とか食材とか、バドミントンのラケットやサッカーボールをバスから運び出している。
「16時くらいまでここで収録です。バーベキューをしたり、この辺りでスポーツや散策等をしたりして交流を深めてくださいね」
バスを降りる前に受けたアナウンスを思い出す。手元の時計は11時を少し過ぎているところだった。
「あれ、飲み物は無さげですか?」
アヤカちゃんがスタッフに尋ねている。確かに肉とか野菜は用意されているけれど、飲み物は影もない。
「あーごめん!」
スタッフは忘れていたらしく、照れ笑いしながら、なにかリクエストはと尋ねた。お茶だとかコーラだとかリクエストが挙がる中、
「折角だし、ツーショットで買い出し行くのどうですか?」
アヤカちゃんが提案した。僕たちも満場一致でその案は通る。そしてバドミントンで勝った人がツーショットを誘える権利を得るというルールで試合が始まった。1対1で打ち合いをして、1回でもシャトルを地面に落とした方は負けの総当たり戦である。風が吹くとシャトルが流されるため、1回の試合は大体2、3往復くらいのラリーで決着がついた。案外早く勝者は決まって、時刻は11時20分過ぎ。勝者は僕でツーショットにはアヤカちゃんを誘うことにした。一番話しやすいかなと思ったからだ。
買い出しは大体20分くらいで12時前には戻ってこれるということで、他のメンバーは引き続きスポーツでもして遊んで待つことになった。
動き出すバスから僕とアヤカちゃんは窓から乗り出して皆に手を振って、買い出しへと向かう。見送る他のメンバーが後ろに流れていくのを見ながら、僕は少し羨ましいと思ってしまった。
――せーのっ、
「ただいまーー!」
アヤカの提案で僕たちは息を合わせて声を張り上げた。そして飲み物が入ったレジ袋を万歳をして上に掲げる。
広場では男子メンバーのユウタが得意気にリフティングを披露していた。サッカーボールに日焼けた肌はよく似合っており、サヨちゃんが目を輝かせてユウタを見つめているのが離れていても良く分かった。
声に気がついて、皆が集まってくる。
「めっちゃ仲良くなってんじゃん!」
ユウタが僕にそう言った。
程なくして僕たちはバーベキューの準備にとりかかる。男子は機材を組み立て炭に火をつけ、女子は食材を切ったりテーブルを整えたりしている。男子の方の準備が整って、女子の作業の様子を見に行った時、
「……マコくんかな?」
ミナミちゃんの言葉が聞こえた――
1週目の旅が終わって平日を迎えるといつもと変わらぬ生活が始まった。まるで週末の旅は夢だったような、不思議な感覚になる。学校の帰り道で線路沿いに咲くコスモスを見つけて、ミナミちゃんはどうしてるんだろうとふと思った。
そして金曜日の夜、ミナミちゃんからビデオ通話がかかってきた。
「もしもーし」
手を振って画面に現れたミナミちゃんは、少し照れているようで、前髪をしきりに弄っている。
「なんで僕に?」
戸惑う僕に、ミナミちゃんが指に貼られた絆創膏を画面に映して、
「先週言いそびれちゃったから、お礼言いたくて……」
照れくさそうにありがとうと頭を下げた。そして、明日言うのも変かなと思ってと付け足してはにかんでいる。
――そうかお礼か
僕を気になってるからという理由ではなくて少しがっかりしたが、お礼のためでも電話をもらったことは嬉しかった。
彼女の巻いた絆創膏に、先週の記憶が引き出される。
**
バーベキューの食材を皆でコンロの方まで運び、僕がまだ野菜を切ってるミナミちゃんの所へ戻った時の記憶だ。俯くミナミちゃんは髪が下に垂れて顔が見えなかった。集中している様子に声をかけるかどうか逡巡していると、まな板に雫が落ちて染みを作ったのが目についた。それまで花のような笑顔が印象的だった彼女が、だ。どうして? 僕は慌てる。
「大丈夫?」
声をかけ、彼女の指の怪我――赤い線に気がついた。
**
ビデオ通話の画面に映し出されたミナミちゃんの手、絆創膏が貼られているのは左薬指だった。
「あー良いのに。てかずっと同じの貼ってくれてたん? そろそろ変えなよ!」
左薬指……我ながらロマンチックなことが思い浮かんで照れくさくなり、悟られないように、からかって、笑って、ごまかした。
「そんなわけないって! これさっき変えたばっかだよ。新品!」
ミナミちゃんも笑って応じてくれる。やっぱりミナミちゃんは笑顔が素敵だな、と思った。そしてまたバーベキューの時の記憶が、彼女の笑顔と重なって思い出される。
**
肉と野菜を焼きながら、好きなタイプの話で盛り上がった。一緒にいて楽しい人、とマコが言うと、
「食べ終わったらツーショット行こう!」
アヤカがマコに提案した。アヤカも好きなタイプが同じらしく、話のテンポが合うことはお互いに好感触らしかった。
「サヨちゃん、俺たちもあとでどう?」
続いてユウタがサヨちゃんをツーショットに誘った。残ったのは僕とケイトとミナミちゃん。僅かな沈黙が流れ、
「じゃあ、私たちは3人で散歩しよう?」
ミナミちゃんが明るく言った。けれどその笑顔はなんだか無理をしているようにも見え、僕は少しでも元気を出してほしくて……焼き上がった肉をミナミちゃんのお皿に取り分けた。
「ほら! この肉、近江牛だってさ。美味しいよな!」
僕は花が咲くのを期待したのだけれど、ありがとねと言うミナミちゃんの表情は少し悲しげで、自分まで悲しくなった。
――君の太陽に、僕はなれない
そう悟って視線が落ちた。
**
「もう泣くなよ?」
画面に映るミナミちゃんに向かって僕は指を指してからかった。そして、
――マコと上手くいくことを願ってるよ
内心でそう付け加えた。胸が苦しくなる。でも、
「だからあれは泣いてたんじゃないの! 玉ねぎのせい!」
僕の真意も知らずにムキになってそう言うミナミちゃんが可愛くて、あぁ笑ってしまう。
「それじゃあね、明日も楽しもうね!」
「またね」
通話が切れると、僕は天井を仰いだ。ミナミちゃんの旅の残りの日数が気になる。
――もしかして、彼女のチケットは……
あと2枚かも知れないと思うと胸がざわついた。自分の封筒を取り出し、残りのチケットを眺める。残り4枚、その内の1枚が赤いチケットだ。それは告白する日に使用するチケットで、使えば告白が成功でも失敗でも旅を去らなくてはいけなかった。
ミナミちゃんの持つチケットがあと2枚あったとしても、明日マコに告白してしまえば明後日はいない。考え出すときりが無く、そんな僅かな可能性まで思い描いては胸が苦しくなった。
時計の針はうるさく時を刻み、夜は深まっていく。眠れない夜にそうか僕はミナミちゃんが好きなのだと気がついた。
そして日は昇り、また旅が始まる。僕は今、チケットの回収箱を前に思考が巡る。
――明日、君はいないかもしれない
自己紹介を終えるとスタッフに案内されて琵琶湖博物館へ移動する。博物館内のある展示スペースに入ると、広めの空間いっぱいにマンモスの骨格が飾られてあった。
「でかっ、かっけー!」
思わずその大きさに心惹かれ、思ったことが飛び出した。呟き程度の声のはずだがすぐ近くにいたミナミちゃんには聞こえてしまったらしい。彼女は静かに笑って直角に曲げた手首を彼女の額の位置から僕のところまで持っていく。少し背伸びをして微笑む彼女はどこか、コスモスの花のように思えた。
マンモスの骨格模型の前には机が設けられ、7枚の封筒が置かれている。いよいよ旅の日数を決めるチケットの抽選が始まる。
各々が緊張した面持ちで封筒を手に取っていく。僕も緊張しながら封筒を取った。立ち位置に戻って中身を確認すると、恋チケットは6枚入っている。つまり3週目まで旅を続けられるようだった。旅が終わるのが来週じゃなかったことに僕は一旦胸を撫で下ろしたが、この中の誰かは3週目にはもういないことを考えると少し寂しく思った。
チケットを抽選した後は博物館に併設されている水族館を皆で見学した。魚は好きかとか、好きな食べ物はとか、血液型はとか皆で雑談をしながらフロアを回る。
「めっちゃ可愛いー!」
琵琶湖博物館一の人気者らしいアザラシの水槽の前でアヤカちゃんは一段とテンションを高くしている。アヤカちゃんは明るくて、話すのも上手い。初対面の僕たちの距離を縮めて、場を盛り上げてくれている。はしゃぐアヤカちゃんを見て、良い子だな、と素直に感じた。
「綺麗な目……」
ふと聞こえたのは小さな呟き。それはミナミちゃんのものだった。愛想よくこちらを見つめているアザラシに、ミナミちゃんもじっと見つめ返している。なんだか風に揺れるコスモスみたいだ。
そろそろ出る?誰かが問うと、そうだねと言う返事と共に誰からともなく出口へ向かって歩き始めた。帰り道でも趣味とか部活とか、初対面ならではの雑談は続いた。女子バレー部なんだとミナミちゃんは楽しそうに話している姿に、この子は本当に花が咲くように笑うなとつられて僕も頬が緩んだ。
水族館を後にした僕たちはロケバスに乗って琵琶湖のほとり――バーベキューができるエリアに到着した。
「良い眺めー!」
バスから降りて誰かが言った。
「うわでっかぁ……」
僕もバスを降りると博物館の骨格模型を見た時と同じような言葉が出る。眼前に広がる琵琶湖は思っていたよりも広かった。またミナミちゃんはくすくす笑うのかなと彼女を目で探してみると、彼女の花のような笑顔は他のメンバーに向けられていた。
スタッフはバーベキュー用の機材とか食材とか、バドミントンのラケットやサッカーボールをバスから運び出している。
「16時くらいまでここで収録です。バーベキューをしたり、この辺りでスポーツや散策等をしたりして交流を深めてくださいね」
バスを降りる前に受けたアナウンスを思い出す。手元の時計は11時を少し過ぎているところだった。
「あれ、飲み物は無さげですか?」
アヤカちゃんがスタッフに尋ねている。確かに肉とか野菜は用意されているけれど、飲み物は影もない。
「あーごめん!」
スタッフは忘れていたらしく、照れ笑いしながら、なにかリクエストはと尋ねた。お茶だとかコーラだとかリクエストが挙がる中、
「折角だし、ツーショットで買い出し行くのどうですか?」
アヤカちゃんが提案した。僕たちも満場一致でその案は通る。そしてバドミントンで勝った人がツーショットを誘える権利を得るというルールで試合が始まった。1対1で打ち合いをして、1回でもシャトルを地面に落とした方は負けの総当たり戦である。風が吹くとシャトルが流されるため、1回の試合は大体2、3往復くらいのラリーで決着がついた。案外早く勝者は決まって、時刻は11時20分過ぎ。勝者は僕でツーショットにはアヤカちゃんを誘うことにした。一番話しやすいかなと思ったからだ。
買い出しは大体20分くらいで12時前には戻ってこれるということで、他のメンバーは引き続きスポーツでもして遊んで待つことになった。
動き出すバスから僕とアヤカちゃんは窓から乗り出して皆に手を振って、買い出しへと向かう。見送る他のメンバーが後ろに流れていくのを見ながら、僕は少し羨ましいと思ってしまった。
――せーのっ、
「ただいまーー!」
アヤカの提案で僕たちは息を合わせて声を張り上げた。そして飲み物が入ったレジ袋を万歳をして上に掲げる。
広場では男子メンバーのユウタが得意気にリフティングを披露していた。サッカーボールに日焼けた肌はよく似合っており、サヨちゃんが目を輝かせてユウタを見つめているのが離れていても良く分かった。
声に気がついて、皆が集まってくる。
「めっちゃ仲良くなってんじゃん!」
ユウタが僕にそう言った。
程なくして僕たちはバーベキューの準備にとりかかる。男子は機材を組み立て炭に火をつけ、女子は食材を切ったりテーブルを整えたりしている。男子の方の準備が整って、女子の作業の様子を見に行った時、
「……マコくんかな?」
ミナミちゃんの言葉が聞こえた――
1週目の旅が終わって平日を迎えるといつもと変わらぬ生活が始まった。まるで週末の旅は夢だったような、不思議な感覚になる。学校の帰り道で線路沿いに咲くコスモスを見つけて、ミナミちゃんはどうしてるんだろうとふと思った。
そして金曜日の夜、ミナミちゃんからビデオ通話がかかってきた。
「もしもーし」
手を振って画面に現れたミナミちゃんは、少し照れているようで、前髪をしきりに弄っている。
「なんで僕に?」
戸惑う僕に、ミナミちゃんが指に貼られた絆創膏を画面に映して、
「先週言いそびれちゃったから、お礼言いたくて……」
照れくさそうにありがとうと頭を下げた。そして、明日言うのも変かなと思ってと付け足してはにかんでいる。
――そうかお礼か
僕を気になってるからという理由ではなくて少しがっかりしたが、お礼のためでも電話をもらったことは嬉しかった。
彼女の巻いた絆創膏に、先週の記憶が引き出される。
**
バーベキューの食材を皆でコンロの方まで運び、僕がまだ野菜を切ってるミナミちゃんの所へ戻った時の記憶だ。俯くミナミちゃんは髪が下に垂れて顔が見えなかった。集中している様子に声をかけるかどうか逡巡していると、まな板に雫が落ちて染みを作ったのが目についた。それまで花のような笑顔が印象的だった彼女が、だ。どうして? 僕は慌てる。
「大丈夫?」
声をかけ、彼女の指の怪我――赤い線に気がついた。
**
ビデオ通話の画面に映し出されたミナミちゃんの手、絆創膏が貼られているのは左薬指だった。
「あー良いのに。てかずっと同じの貼ってくれてたん? そろそろ変えなよ!」
左薬指……我ながらロマンチックなことが思い浮かんで照れくさくなり、悟られないように、からかって、笑って、ごまかした。
「そんなわけないって! これさっき変えたばっかだよ。新品!」
ミナミちゃんも笑って応じてくれる。やっぱりミナミちゃんは笑顔が素敵だな、と思った。そしてまたバーベキューの時の記憶が、彼女の笑顔と重なって思い出される。
**
肉と野菜を焼きながら、好きなタイプの話で盛り上がった。一緒にいて楽しい人、とマコが言うと、
「食べ終わったらツーショット行こう!」
アヤカがマコに提案した。アヤカも好きなタイプが同じらしく、話のテンポが合うことはお互いに好感触らしかった。
「サヨちゃん、俺たちもあとでどう?」
続いてユウタがサヨちゃんをツーショットに誘った。残ったのは僕とケイトとミナミちゃん。僅かな沈黙が流れ、
「じゃあ、私たちは3人で散歩しよう?」
ミナミちゃんが明るく言った。けれどその笑顔はなんだか無理をしているようにも見え、僕は少しでも元気を出してほしくて……焼き上がった肉をミナミちゃんのお皿に取り分けた。
「ほら! この肉、近江牛だってさ。美味しいよな!」
僕は花が咲くのを期待したのだけれど、ありがとねと言うミナミちゃんの表情は少し悲しげで、自分まで悲しくなった。
――君の太陽に、僕はなれない
そう悟って視線が落ちた。
**
「もう泣くなよ?」
画面に映るミナミちゃんに向かって僕は指を指してからかった。そして、
――マコと上手くいくことを願ってるよ
内心でそう付け加えた。胸が苦しくなる。でも、
「だからあれは泣いてたんじゃないの! 玉ねぎのせい!」
僕の真意も知らずにムキになってそう言うミナミちゃんが可愛くて、あぁ笑ってしまう。
「それじゃあね、明日も楽しもうね!」
「またね」
通話が切れると、僕は天井を仰いだ。ミナミちゃんの旅の残りの日数が気になる。
――もしかして、彼女のチケットは……
あと2枚かも知れないと思うと胸がざわついた。自分の封筒を取り出し、残りのチケットを眺める。残り4枚、その内の1枚が赤いチケットだ。それは告白する日に使用するチケットで、使えば告白が成功でも失敗でも旅を去らなくてはいけなかった。
ミナミちゃんの持つチケットがあと2枚あったとしても、明日マコに告白してしまえば明後日はいない。考え出すときりが無く、そんな僅かな可能性まで思い描いては胸が苦しくなった。
時計の針はうるさく時を刻み、夜は深まっていく。眠れない夜にそうか僕はミナミちゃんが好きなのだと気がついた。
そして日は昇り、また旅が始まる。僕は今、チケットの回収箱を前に思考が巡る。
――明日、君はいないかもしれない