第31話 平原の場合7
文字数 1,915文字
金城はプランツェへの訪問まで、思いつく限りの入念な準備を行った。聴くことが大切、という考えを軸に、何を聴くべきか、聴き洩らしがないように、尚且つ尋問やインタビューのようなことにはならず、スムーズなヒアリングが出来るよう、何度か桜井を練習台にして本番に臨んだ。
迎えた訪問当日、プランツェの社風は事前の想定通り、素晴らしいものだった。人事担当者の大前は、50歳前後の男性だったが、驚くほど腰も低く、かと言って自信がない訳でもない、パッと見てわかるほど素晴らしい人柄で、会話を重ねれば重ねるほど、魅力が全面に醸し出されるタイプだった。人事担当者だけでなく、現場の方々の様子も見学させてもらったが、軒並み笑顔で、穏やかながらも活気のある印象の会社だった。大前曰くだが、外資系の自由を尊び個性を尊重するDNAと、日本で長年培ってきたチームワークを重視する文化が、良い形で融合しているのが大きな要因とのことだった。
金城は業界での経験がないものの、直感的に平原の魅力と、プランツェの社風はマッチするのではないか、と感じていた。現場を見学させてもらった時に、そこに平原が働いていても何の違和感もない、とも感じていた。どんどんデジタルなマッチングが進んでいく世の中だが、こうしたアナログな感覚も非常に重要なことなのだ。ただし、アナログな感覚というものは先天的なもの、幼少期からの環境によって大きく左右することのため、社会人になってから教育することが難しいこともあり、この業界では「誰でも出来る仕事」になるように、どんどんデジタルなマッチング方法が広がっている、と石原に教えてもらったことを思い出していた。
金城の直感の正しさを示すように、平原の選考は驚くほどスムーズに進んでいたのだが、初めての経験だった金城には、そのスムーズさをこの時は理解できていなかった。
今回の場合、プランツェが人材紹介サービスをこれまで何度か利用をしたことがあったようで、手数料の水準にも理解があったのも有難い話だった。更に、他の人材紹介サービスを利用していた経験から、GEARの特異性もすぐに理解してもらうことが出来た。金城からの入社希望の人財情報メールを受け取った段階で、大前はGEARという会社が他の人材紹介会社にはない魅力がることに、気付いてくれていたことも教えてもらうことが出来た。金城はあらためて自分が良いと思えて転職した会社が、自分だけの思い込みだけでなく、このような形でお客様にも高く評価をしてもらえる仕事なのだ、ということを証明してもらえた気持ちになり、更にGEARのことを、そして石原のことを誇らしく感じていた。
はたして平原は内定を勝ち取り、他社を比較することなく、入社承諾書に捺印をすることになった。内定をもらえた1社目で転職を決めるケースは全体の4割ほどと言われているのだが、平原のように他の会社を一切受けないケースは極めて珍しい事例だった。どうしてもせっかくの機会だから1社でも多く見たい、という気持ちを持つケースは多いのだが、それは裏返しにすると、自分のやりたいことが明確ではない、自分の武器(個性)に合う社風がわかっていない、ということの裏返しなのだ。平原のようにしっかりと自己理解、自己肯定が出来ているケースは、情報収集さえしっかりやっていれば、1社だけの選考で十分理想の環境に出会うことも出来るのだ。
特に人材紹介会社を利用する場合、多くの求人情報を案内されることが一般的だ。特に人材紹介会社にとって、良い商品(職歴が整っている人材)と思われた場合は顕著で、そうしたマニュアルがあり、求職者1人あたり10件以上の求人を紹介する、というKPI管理をする場合もあるほどだ。
これは建前で言うと、「求職者に選択肢を多くもってもらう」とも言えるが、裏側の本音は、「他所の人材紹介会社を使わせない」「情報過多にして迷子になってもらい、こちらが誘導しやすいようにする」ということに他ならない。語弊がないようにしておきたいが、人材紹介会社の中でも現場で働く方々の中には、建前を本音と疑わず、一生懸命に良いことをしていると思って疑わない方々もいる。だが、仕組みを作る側、マニュアルを作る側、目標設定をする側の本音は、概ね自社にとって利益になるようにしているケースが大半だ。
こうして平原はプランツェに入社するのだが、大手重工業と同等の年収を維持しながら、希望のスキルアップを果たすことが出来た。そして入社して18年後にはプランツェで最年少役員にまで上り詰めることになるのだが、それはまだ誰も知る由もないことだった。
迎えた訪問当日、プランツェの社風は事前の想定通り、素晴らしいものだった。人事担当者の大前は、50歳前後の男性だったが、驚くほど腰も低く、かと言って自信がない訳でもない、パッと見てわかるほど素晴らしい人柄で、会話を重ねれば重ねるほど、魅力が全面に醸し出されるタイプだった。人事担当者だけでなく、現場の方々の様子も見学させてもらったが、軒並み笑顔で、穏やかながらも活気のある印象の会社だった。大前曰くだが、外資系の自由を尊び個性を尊重するDNAと、日本で長年培ってきたチームワークを重視する文化が、良い形で融合しているのが大きな要因とのことだった。
金城は業界での経験がないものの、直感的に平原の魅力と、プランツェの社風はマッチするのではないか、と感じていた。現場を見学させてもらった時に、そこに平原が働いていても何の違和感もない、とも感じていた。どんどんデジタルなマッチングが進んでいく世の中だが、こうしたアナログな感覚も非常に重要なことなのだ。ただし、アナログな感覚というものは先天的なもの、幼少期からの環境によって大きく左右することのため、社会人になってから教育することが難しいこともあり、この業界では「誰でも出来る仕事」になるように、どんどんデジタルなマッチング方法が広がっている、と石原に教えてもらったことを思い出していた。
金城の直感の正しさを示すように、平原の選考は驚くほどスムーズに進んでいたのだが、初めての経験だった金城には、そのスムーズさをこの時は理解できていなかった。
今回の場合、プランツェが人材紹介サービスをこれまで何度か利用をしたことがあったようで、手数料の水準にも理解があったのも有難い話だった。更に、他の人材紹介サービスを利用していた経験から、GEARの特異性もすぐに理解してもらうことが出来た。金城からの入社希望の人財情報メールを受け取った段階で、大前はGEARという会社が他の人材紹介会社にはない魅力がることに、気付いてくれていたことも教えてもらうことが出来た。金城はあらためて自分が良いと思えて転職した会社が、自分だけの思い込みだけでなく、このような形でお客様にも高く評価をしてもらえる仕事なのだ、ということを証明してもらえた気持ちになり、更にGEARのことを、そして石原のことを誇らしく感じていた。
はたして平原は内定を勝ち取り、他社を比較することなく、入社承諾書に捺印をすることになった。内定をもらえた1社目で転職を決めるケースは全体の4割ほどと言われているのだが、平原のように他の会社を一切受けないケースは極めて珍しい事例だった。どうしてもせっかくの機会だから1社でも多く見たい、という気持ちを持つケースは多いのだが、それは裏返しにすると、自分のやりたいことが明確ではない、自分の武器(個性)に合う社風がわかっていない、ということの裏返しなのだ。平原のようにしっかりと自己理解、自己肯定が出来ているケースは、情報収集さえしっかりやっていれば、1社だけの選考で十分理想の環境に出会うことも出来るのだ。
特に人材紹介会社を利用する場合、多くの求人情報を案内されることが一般的だ。特に人材紹介会社にとって、良い商品(職歴が整っている人材)と思われた場合は顕著で、そうしたマニュアルがあり、求職者1人あたり10件以上の求人を紹介する、というKPI管理をする場合もあるほどだ。
これは建前で言うと、「求職者に選択肢を多くもってもらう」とも言えるが、裏側の本音は、「他所の人材紹介会社を使わせない」「情報過多にして迷子になってもらい、こちらが誘導しやすいようにする」ということに他ならない。語弊がないようにしておきたいが、人材紹介会社の中でも現場で働く方々の中には、建前を本音と疑わず、一生懸命に良いことをしていると思って疑わない方々もいる。だが、仕組みを作る側、マニュアルを作る側、目標設定をする側の本音は、概ね自社にとって利益になるようにしているケースが大半だ。
こうして平原はプランツェに入社するのだが、大手重工業と同等の年収を維持しながら、希望のスキルアップを果たすことが出来た。そして入社して18年後にはプランツェで最年少役員にまで上り詰めることになるのだが、それはまだ誰も知る由もないことだった。