第23話 株式会社GEARの裏側6
文字数 2,448文字
お代わりの飲み物がすぐにやって来た。金城は念願の八重泉を口に含むと、至福の表情を浮かべていた。だがすぐに我に返り、石原の方に向きなおした。だが石原も同じく、地酒を一杯目かのように口にして、至福の表情を浮かべているところだった。金城の視線で我に返った石原は、
「核心の話だったね。」
と言いながら、もう一口飲み直して、話を続けた。
「2000年前後というのは、就職活動の大きな転換期だったんだよ。いや、就職活動だけでなく、歴史的にも大きな変革期だった。」
「就職活動だけでなく、歴史的にも、、、」
そう言うと金城は少し考え込んで、閃いたように言葉を発した。
「インターネット!」
「そうだね。パソコンやインターネットが一般家庭に急激に普及しだした時なんだ。」
「昔を振り返るテレビ番組で、Windows95が爆発的に売れた、というニュースは見たことがあります。」
「そうだね、僕もまだ学生だったからそれほど実感はなかったけど、今思えば大きな社会変革期だった。それこそ歴史の授業で勉強した産業革命のように、未来の歴史の授業では間違いなく取り上げられる革命だと思う。」
さりげない石原の発言だったが、金城は未来を意識した石原の視点がすごい、とあらためて感じていた。石原は西京漬けと地酒を口に運びながら続けた。
「歴史的な社会変革が起こると、必ずそれに伴って世の中になかった新しいサービスが生まれる。」
石原は少し間を取るように、また地酒を飲んだ。
「その1つが就活ナビサイトだよ。」
そして石原の地酒を飲み干した。金城のグラスにはまだたっぷりの泡盛が残っていた。ミズキはどこかで見ていたかのようなタイミングで個室に顔を出し、石原とアイコンタクトを取り、すぐに地酒の一升瓶を持って来て、石原の桝に並々と注いだ。金城も少し泡盛を口に含んだ。
「ナビサイトってそれくらいの時期に生まれたんですね。」
「うん、生まれたのは90年代後半だね。でも新しい仕組みはすぐには受け入れられず、最初の数年はそれほど大きく利用者が広がることはなかったんだよ。莫大な資金を費やして広告宣伝したにも関わらずね。」
「それが今では当たり前にみんなが使う時代が来てるんですから、すごいですよね。」
「うん、実際すごいことだと思う。これだけ世の中に影響を与える仕事だからね。」
「でも何がきっかけで利用者が増えたんですか?」
「素晴らしい質問だね。」
そう言うとまた石原は地酒を口に含んだ。
「そこに自己分析の裏側がある、と僕は考えてるんだ。」
「ここで自己分析ですか、、、」
そう言うと金城はこれまでの石原との会話を思い起こした。その様子を見て石原は西京焼きをつまみながら、また地酒を愉しむことにした。少し酔いが回り始めた頭でも、金城はすばやく石原のある言葉を思い返し、セレンディピティを得た。
「迷子、、、学生を迷子にさせたかった!?」
その答えを聞いた石原は満足そうに、また地酒を飲んだ。
「その通り。だと僕は思ってるよ。」
金城も泡盛を大きく口に含んで、もう一度思考を整理した。
なるほど、土台無理な自己分析を学生にさせることで、学生は本当の自分を見失い迷子になる。それだけでなく、期間が決められている就職活動において、膨大な時間を費やしてしまうことにもなる。迷子になり、更に時間にも追われた学生は、不安と焦りから視野が狭くなり、とにかく多くの会社に応募をしようと思う。その時に、藁をもつかむ思いですがりつくのは、求人情報が多く載っているナビサイトなのだ。なんと巧みで、恐ろしい動線なのだ。金城は自分の経験だけでなく、同じように自己分析で苦労をした同級生の顔が浮かび、恐怖心に襲われた。自己分析が出来なかった自分も、出来ていると勘違いしてしまった人も、どちらにとっても不幸な結果を生んでいる。恐ろしいことは、自己分析がさも素晴らしいことのように謳われて、当然のように必要なものと思わされていたことだ。まるで洗脳をされるように。金城は怖さを紛らわし、気持ちを整理させるためにも、泡盛を飲んだ。そして思ったことをそのまま口に出していた。
「なんて恐ろしいことを、、、」
「本当にそうだね。自分の事、自分の会社だけのことを優先した計画にも思えるよね。でも悲しいことに、世の中の多くはそうして出来ているんだと思う。」
そう言うと石原はスマートフォンを指さして、
「ほら、これだって世に生み出した偉大と言われている経営者は、自分の家族にはスマホは持たせないようにしているって言うしね。」
そして、西京焼きを指しながら、
「これだって、このお店は本当のムツを使ってるけど、メロっていう全く別の魚をムツと呼んで商品にするのも、日本では合法だからね。」
また石原は地酒を飲んだ。
「世の中は、ルールや仕組みを作る側と、その仕組みを利用する側に分かれているんだよ。もっとストレートな言い方をすると、支配する側と、支配される側に分かれている、ということかな。」
石原は地酒を飲み干した。
「ただね、誤解してはいけないのは、ナビサイトを作った会社も、そこで働いている人たちは素晴らしい人格者の方々もたくさんいるということ。実際に僕も知り合いや、飲み仲間にはその会社で働いて、素晴らしい仕事をしている人がいるからね。でも一部の仕組みを作る側、支配している側の人が、極めて利己的で、自分たちさえ良ければ良い、という発想を持っている人がいると、社会にとっては危険な仕組みが生まれるのは間違いがない事実だね。」
そう言うと石原はミズキを呼び、自分のお酒と、空になった金城のお酒のお代わりを注文した。そして新しいお酒が来ると、石原はプライベートのこと、趣味のことに話題を切り替えた。金城もこの日はそれ以上、仕事に関わることを聞くことはなかった。
「核心の話だったね。」
と言いながら、もう一口飲み直して、話を続けた。
「2000年前後というのは、就職活動の大きな転換期だったんだよ。いや、就職活動だけでなく、歴史的にも大きな変革期だった。」
「就職活動だけでなく、歴史的にも、、、」
そう言うと金城は少し考え込んで、閃いたように言葉を発した。
「インターネット!」
「そうだね。パソコンやインターネットが一般家庭に急激に普及しだした時なんだ。」
「昔を振り返るテレビ番組で、Windows95が爆発的に売れた、というニュースは見たことがあります。」
「そうだね、僕もまだ学生だったからそれほど実感はなかったけど、今思えば大きな社会変革期だった。それこそ歴史の授業で勉強した産業革命のように、未来の歴史の授業では間違いなく取り上げられる革命だと思う。」
さりげない石原の発言だったが、金城は未来を意識した石原の視点がすごい、とあらためて感じていた。石原は西京漬けと地酒を口に運びながら続けた。
「歴史的な社会変革が起こると、必ずそれに伴って世の中になかった新しいサービスが生まれる。」
石原は少し間を取るように、また地酒を飲んだ。
「その1つが就活ナビサイトだよ。」
そして石原の地酒を飲み干した。金城のグラスにはまだたっぷりの泡盛が残っていた。ミズキはどこかで見ていたかのようなタイミングで個室に顔を出し、石原とアイコンタクトを取り、すぐに地酒の一升瓶を持って来て、石原の桝に並々と注いだ。金城も少し泡盛を口に含んだ。
「ナビサイトってそれくらいの時期に生まれたんですね。」
「うん、生まれたのは90年代後半だね。でも新しい仕組みはすぐには受け入れられず、最初の数年はそれほど大きく利用者が広がることはなかったんだよ。莫大な資金を費やして広告宣伝したにも関わらずね。」
「それが今では当たり前にみんなが使う時代が来てるんですから、すごいですよね。」
「うん、実際すごいことだと思う。これだけ世の中に影響を与える仕事だからね。」
「でも何がきっかけで利用者が増えたんですか?」
「素晴らしい質問だね。」
そう言うとまた石原は地酒を口に含んだ。
「そこに自己分析の裏側がある、と僕は考えてるんだ。」
「ここで自己分析ですか、、、」
そう言うと金城はこれまでの石原との会話を思い起こした。その様子を見て石原は西京焼きをつまみながら、また地酒を愉しむことにした。少し酔いが回り始めた頭でも、金城はすばやく石原のある言葉を思い返し、セレンディピティを得た。
「迷子、、、学生を迷子にさせたかった!?」
その答えを聞いた石原は満足そうに、また地酒を飲んだ。
「その通り。だと僕は思ってるよ。」
金城も泡盛を大きく口に含んで、もう一度思考を整理した。
なるほど、土台無理な自己分析を学生にさせることで、学生は本当の自分を見失い迷子になる。それだけでなく、期間が決められている就職活動において、膨大な時間を費やしてしまうことにもなる。迷子になり、更に時間にも追われた学生は、不安と焦りから視野が狭くなり、とにかく多くの会社に応募をしようと思う。その時に、藁をもつかむ思いですがりつくのは、求人情報が多く載っているナビサイトなのだ。なんと巧みで、恐ろしい動線なのだ。金城は自分の経験だけでなく、同じように自己分析で苦労をした同級生の顔が浮かび、恐怖心に襲われた。自己分析が出来なかった自分も、出来ていると勘違いしてしまった人も、どちらにとっても不幸な結果を生んでいる。恐ろしいことは、自己分析がさも素晴らしいことのように謳われて、当然のように必要なものと思わされていたことだ。まるで洗脳をされるように。金城は怖さを紛らわし、気持ちを整理させるためにも、泡盛を飲んだ。そして思ったことをそのまま口に出していた。
「なんて恐ろしいことを、、、」
「本当にそうだね。自分の事、自分の会社だけのことを優先した計画にも思えるよね。でも悲しいことに、世の中の多くはそうして出来ているんだと思う。」
そう言うと石原はスマートフォンを指さして、
「ほら、これだって世に生み出した偉大と言われている経営者は、自分の家族にはスマホは持たせないようにしているって言うしね。」
そして、西京焼きを指しながら、
「これだって、このお店は本当のムツを使ってるけど、メロっていう全く別の魚をムツと呼んで商品にするのも、日本では合法だからね。」
また石原は地酒を飲んだ。
「世の中は、ルールや仕組みを作る側と、その仕組みを利用する側に分かれているんだよ。もっとストレートな言い方をすると、支配する側と、支配される側に分かれている、ということかな。」
石原は地酒を飲み干した。
「ただね、誤解してはいけないのは、ナビサイトを作った会社も、そこで働いている人たちは素晴らしい人格者の方々もたくさんいるということ。実際に僕も知り合いや、飲み仲間にはその会社で働いて、素晴らしい仕事をしている人がいるからね。でも一部の仕組みを作る側、支配している側の人が、極めて利己的で、自分たちさえ良ければ良い、という発想を持っている人がいると、社会にとっては危険な仕組みが生まれるのは間違いがない事実だね。」
そう言うと石原はミズキを呼び、自分のお酒と、空になった金城のお酒のお代わりを注文した。そして新しいお酒が来ると、石原はプライベートのこと、趣味のことに話題を切り替えた。金城もこの日はそれ以上、仕事に関わることを聞くことはなかった。