ホワイトマジックウーマン
文字数 1,226文字
「我、汝に触れる。聖霊、汝を癒したもう」
乃絵の体へヤドリギの杖をかざしながら、咲良は素手で乃絵の深い傷口に触れた。傷口がみるみるうちにふさがるとともに顔には血色が戻っていく。
“あっ、そうだ! こっちの方も直しておかないと”
教室の中で咲良が手に持った杖を大きく振ると、亜希の上着や床から血痕が消え、散らかった机イスが元の場所に戻り、乃絵の胴体を貫通した9mmパラベラム弾がつけた壁の穴も自然にふさがっていった。
目の前で信じられない光景が繰り広げられたことで夢見心地がさらに深くなった生徒たちに声がかけられた。
「皆さん、集まってください! それにいいですか、私の言うことを静かに聞いてください」
大きな声でその場を仕切る、オークのヤドリギを手にした咲良の呼びかけに生徒たちは耳を傾ける。
「… この教室内ではなにも起きませんでした。いいですね?」
生徒たちは首をたてに振り恭順の意を示す。さらに咲良は将人と亜希に声をかける。
「藤村君は弓月さんへ鉄砲を返してあげるのよ」
虚ろな目をした将人が拳銃を咲良に渡すと、咲良はそれを亜希の脚のホルスターに戻した。
「おい、一体どうなっているんだ!?」
サトー先生を呼びに行った雪秀がAEDを手に戻って来てから、目の前で繰り広げられるあり得ない光景に驚嘆の声をあげていた。雪秀の頭には登校時に遠くからチラッと見えた不可解な出来事のことがフラッシュバックした。
「これはXファイルズか?」
“何だかよく分からないけれども”
目を大きく見開いている雪秀の視界の中に入らないようにしながら、杖を手にした咲良が音もたてずに氷上を滑るように雪秀に近寄っていく。
“兼高さんって面白い人ね…”
咲良は微妙な笑みを浮かべながら雪秀の死角に入って杖を振り上げた。異変を感じ取って振り向いた雪秀の視線は妖しく光る咲良の目に吸い寄せられた。
「急に倒れた女子がいるのはここか?!」
後ろから雪秀にぶつかりそうな勢いでサトー先生が叫びながら教室内へ駆け込んできた。
「先生、そんな恐い顔をしてどうしたんですか?」
江間 乃絵(えま のえ)が不思議そうな顔をしてサトー先生に問いかけた。
「倒れた女の子なんていませんよ、先生。ねえ、そうよね皆んな?」
周囲に同意を求める乃絵は、制服のシャツに空いた穴から自分の素肌が見えていることに気が付いていないようだった。
「急に倒れたって子なんていたっけ? 誰も知らないよな」
周囲の生徒たちを見回しながら亜希も何ごともなかったように応える。
「お、俺はAEDを戻してきます!」
室内の生徒たちが正気に戻ったところで、咲良の怪しげな施術から逃げ出すチャンスをのがさないように雪秀は教室から飛び出ていった。
「明日の事前準備の打ち合わせ中にあわてて来たのに、本当に誰も倒れていないんだな? 忙しいときに困るんだよ…」
ぼやきながら疲れた顔をしたサトー先生は電子教材室へ戻って行った。
乃絵の体へヤドリギの杖をかざしながら、咲良は素手で乃絵の深い傷口に触れた。傷口がみるみるうちにふさがるとともに顔には血色が戻っていく。
“あっ、そうだ! こっちの方も直しておかないと”
教室の中で咲良が手に持った杖を大きく振ると、亜希の上着や床から血痕が消え、散らかった机イスが元の場所に戻り、乃絵の胴体を貫通した9mmパラベラム弾がつけた壁の穴も自然にふさがっていった。
目の前で信じられない光景が繰り広げられたことで夢見心地がさらに深くなった生徒たちに声がかけられた。
「皆さん、集まってください! それにいいですか、私の言うことを静かに聞いてください」
大きな声でその場を仕切る、オークのヤドリギを手にした咲良の呼びかけに生徒たちは耳を傾ける。
「… この教室内ではなにも起きませんでした。いいですね?」
生徒たちは首をたてに振り恭順の意を示す。さらに咲良は将人と亜希に声をかける。
「藤村君は弓月さんへ鉄砲を返してあげるのよ」
虚ろな目をした将人が拳銃を咲良に渡すと、咲良はそれを亜希の脚のホルスターに戻した。
「おい、一体どうなっているんだ!?」
サトー先生を呼びに行った雪秀がAEDを手に戻って来てから、目の前で繰り広げられるあり得ない光景に驚嘆の声をあげていた。雪秀の頭には登校時に遠くからチラッと見えた不可解な出来事のことがフラッシュバックした。
「これはXファイルズか?」
“何だかよく分からないけれども”
目を大きく見開いている雪秀の視界の中に入らないようにしながら、杖を手にした咲良が音もたてずに氷上を滑るように雪秀に近寄っていく。
“兼高さんって面白い人ね…”
咲良は微妙な笑みを浮かべながら雪秀の死角に入って杖を振り上げた。異変を感じ取って振り向いた雪秀の視線は妖しく光る咲良の目に吸い寄せられた。
「急に倒れた女子がいるのはここか?!」
後ろから雪秀にぶつかりそうな勢いでサトー先生が叫びながら教室内へ駆け込んできた。
「先生、そんな恐い顔をしてどうしたんですか?」
江間 乃絵(えま のえ)が不思議そうな顔をしてサトー先生に問いかけた。
「倒れた女の子なんていませんよ、先生。ねえ、そうよね皆んな?」
周囲に同意を求める乃絵は、制服のシャツに空いた穴から自分の素肌が見えていることに気が付いていないようだった。
「急に倒れたって子なんていたっけ? 誰も知らないよな」
周囲の生徒たちを見回しながら亜希も何ごともなかったように応える。
「お、俺はAEDを戻してきます!」
室内の生徒たちが正気に戻ったところで、咲良の怪しげな施術から逃げ出すチャンスをのがさないように雪秀は教室から飛び出ていった。
「明日の事前準備の打ち合わせ中にあわてて来たのに、本当に誰も倒れていないんだな? 忙しいときに困るんだよ…」
ぼやきながら疲れた顔をしたサトー先生は電子教材室へ戻って行った。