ノリノリ

文字数 1,239文字

 「お~い、五条さ~ん!」

 かなり先の方まで進んでから裕一が振り返り、祈乃里の方へ向かって大きく手を振って呼びかける。

 「そ の ま ま そ こ で 待 っ て い て ~ ! 」

 裕一は離れたところから大きな声で祈乃里へ呼びかける。と、前傾姿勢になって握った両手を交互に振りながらダッシュした。

 “は、速い、速すぎる! し、信じられない!”

 自分に迫って来る裕一のあまりのスピードに祈乃里は恐怖を感じた。

 ”わ、私に ぶ、ぶつかっちゃうよ!?”

 自転車に急ブレーキをかけたように急停止すると、裕一はドヤ顔をしながら祈乃里の方へ近寄って来る。 

 「この機械、本当にスゴイよ! これからの作業、絶対にはかどるよ!」

 すっかり興奮状態となっている裕一は、気持ちを隠そうともしない祈乃里の表情には全く気が付いていない。

 「じゃオレは検査用具を運んでみるよ! オレ一人で大丈夫そうだから五条さんは後からゆっくり来てくれればいいからね!」

 意気揚々と校舎棟に向かう裕一を見る祈乃里の冷めた目つき 

 「なにが『これからの作業、とってもはかどるよ!』って? とてもついていけない! もともと、こんなことは保健委員じゃない私の担当じゃないし!」

 祈乃里はスタスタと早足で校舎棟に向かうとサッサとそのまま昇降口の下駄箱へ向かった。

「それにお愛想を言うことぐらい、そもそも斎戒に当てはまらないんだから、気にしない気にしない…」

 “アラアラ…”

 物陰から祈乃里の姿を追う残念そうな目…

 「先生すごく調子いいですよ、この機械! 素手だと二人でもとても持ち上がらないような重さの検査器具のケースが一人でも余裕で持てました! それを持って階段も楽に昇れたし! 普通にバランスも全然崩れなくって!」 

 一つ目の検査用具ケースの運搬というミッションを軽くコンプリートして保健室へやってきた、楽しくてたまらないといった表情の裕一にヨーコ先生は少し心配そうな反応をした。

 「体に無理とか、スーツに不具合は無かったか?」

 「そんなのゼンゼン! 次のケースはもう用意できていますか?」

 「その前にちょっとコッチへ来い。体とスーツを見せてみろ」

 ヨーコ先生がまとう、ほのかな良い香りが裕一にただよってきた。ヨーコ先生は躊躇なく近づいてきて、あえて距離を置こうとする裕一の腕部や腰部~脚部とスーツの結合部を動かしたり見たりした。

 「締め付けがキツかったり痛みはないか?」

 「ヘーキです」

 「本当は使う前に私がテストすべきだったが、床に落ちた検査器具を滅菌消毒せねばならんかったから… 何の確認もせずにお前に使わせてしまって軽率だったと反省してな…」

 「オレなら本当に平気です。それより次の検査用具のケースの用意はできていますか?」

 「あわてるな、それならもう準備できている。いいな、スーツに違和感があればすぐに言うんだぞ」

 ヨーコ先生が指さす方向にはクッション入りの大き目の長イスの上にプラスチックのケースが置いてあった。
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