答えにくい質問
文字数 1,485文字
「皆んな! 聞いて!」
響子先生がいなくなったことで教室内に満ちている、解放感あふれる生徒達のざわめきの中では、たった一人の人間の呼びかけ声は全く誰の注意を引くことはなかった。しばらくするとスクールバックやリュックを手に持って教室の前後にある扉に向かおうとする生徒の姿もチラホラ出てきた。一人の女子生徒の胸中で焦燥感が大きくなっていく。
“何とかしてこのクラスの生徒たちが教室を出る前に話を聞かないと!”
ピュィ~イッ!
それまでのなごんだ雰囲気を破って教室中に指笛の音が鳴り響いた。
「皆んな聞いて! 教えて欲しいことがあるんだ!」
大きな、そして切羽詰まった声が静まりかえった教室内に響き渡る。
「こ の あ た り で」
亜希は一言ずつハッキリと聞こえるように声を出した。そして再確認するように同じフレーズを繰り返す。
「こ の あ た り で ~ 」
ひと呼吸おいて胸いっぱい空気を吸い込んでその先の言葉へ続ける。
「マ ヤ ク や カ ク セ イ ザ イ が 出 回 っ て い る と こ ろ を 教 え て ち ょ う だ い !」
このコトバが教室内を完全に凍り固まらせた。
「ねえ皆んな、聞こえないの?!」
亜希は教室内に充満する重い空気にぜんぜん気が付かないようだった。
「じゃあ、もう一度聞くわね! こ の あ た り で
「もう止めないか、弓月さん!」
将人怒号が亜希の質問を強制終了させた。
「この教室でそんなこと、聞くことでも、ましてや言うものでもない!」
「なんでそんなことを言うのさ、アンタ? ただ私は、ココらでそういう場所があるはずだから知りたいだけなのに?!」
「そんなこと、おおっぴらに話すようなことじゃないだろ!」
将人は生きた非常識を見ているような顔をしていた。
「なにも自分でヤクやシャブを手に入れたい訳じゃないし! アンタじゃラチが開かないね!」
亜希は将人をにらみ返すとクラス全員の方へ振り返り、それまでと違うアプローチでたずね始めた。
「皆んなの中に麻薬や覚せい剤が出回っているところを知っている人はいないかしら?!」
高入生以外の持ち上がりの生徒たちは同時にある男子生徒の方に目を向けた。
「おい、なんで僕の方を見ているんだ!」
将人の一喝が彼を一斉に注目した生徒たちの視線を将人から外させると同時に生徒たちの身をすくませた。
「へぇ~、皆んなはどうしてフジムラくんの方を見たんだろうね?」
亜希の興味深そうな態度は少々芝居がかっていた。
「このことをハッキリさせるまでアンタら全員をココから出さないよ!」
ガタ… ガタ、ガタ
教室の後ろ扉が動く音が静粛な教室内に響いた。
「スミマセンが」
上目づかいの亜希が早口で有無を言わさぬ低い声で、扉の近くにいる生徒たちに話しかけた。
「その扉は閉めたままにしてくれませんか」
恐怖のお願いをされた扉の一番近くにいる生徒は、黙ったまま扉が開けられないよう内側から力を込めた。
「そう言えば役員決めの途中で兼高が教室を出て行ったままだ」
ケゲンな顔をする亜希の方を見て将人が思い出したように話した。
「このまま返事もしないで教室内に彼を入れないとかえって不自然だ。とりあえず扉を開けて兼高を教室に入れないと」
「それなら私がカネタカくんと話をする」
目にものすごい目ヂカラをこめて後ろ扉に向って進む亜希。
☆!
そのスキを狙って、将人は教室の隅にある非常通報ボタンのすぐそばにいる生徒にアイコンタクトを送った。
だが、その一瞬の将人の視線の動きを亜希は見逃さなかった。
響子先生がいなくなったことで教室内に満ちている、解放感あふれる生徒達のざわめきの中では、たった一人の人間の呼びかけ声は全く誰の注意を引くことはなかった。しばらくするとスクールバックやリュックを手に持って教室の前後にある扉に向かおうとする生徒の姿もチラホラ出てきた。一人の女子生徒の胸中で焦燥感が大きくなっていく。
“何とかしてこのクラスの生徒たちが教室を出る前に話を聞かないと!”
ピュィ~イッ!
それまでのなごんだ雰囲気を破って教室中に指笛の音が鳴り響いた。
「皆んな聞いて! 教えて欲しいことがあるんだ!」
大きな、そして切羽詰まった声が静まりかえった教室内に響き渡る。
「こ の あ た り で」
亜希は一言ずつハッキリと聞こえるように声を出した。そして再確認するように同じフレーズを繰り返す。
「こ の あ た り で ~ 」
ひと呼吸おいて胸いっぱい空気を吸い込んでその先の言葉へ続ける。
「マ ヤ ク や カ ク セ イ ザ イ が 出 回 っ て い る と こ ろ を 教 え て ち ょ う だ い !」
このコトバが教室内を完全に凍り固まらせた。
「ねえ皆んな、聞こえないの?!」
亜希は教室内に充満する重い空気にぜんぜん気が付かないようだった。
「じゃあ、もう一度聞くわね! こ の あ た り で
「もう止めないか、弓月さん!」
将人怒号が亜希の質問を強制終了させた。
「この教室でそんなこと、聞くことでも、ましてや言うものでもない!」
「なんでそんなことを言うのさ、アンタ? ただ私は、ココらでそういう場所があるはずだから知りたいだけなのに?!」
「そんなこと、おおっぴらに話すようなことじゃないだろ!」
将人は生きた非常識を見ているような顔をしていた。
「なにも自分でヤクやシャブを手に入れたい訳じゃないし! アンタじゃラチが開かないね!」
亜希は将人をにらみ返すとクラス全員の方へ振り返り、それまでと違うアプローチでたずね始めた。
「皆んなの中に麻薬や覚せい剤が出回っているところを知っている人はいないかしら?!」
高入生以外の持ち上がりの生徒たちは同時にある男子生徒の方に目を向けた。
「おい、なんで僕の方を見ているんだ!」
将人の一喝が彼を一斉に注目した生徒たちの視線を将人から外させると同時に生徒たちの身をすくませた。
「へぇ~、皆んなはどうしてフジムラくんの方を見たんだろうね?」
亜希の興味深そうな態度は少々芝居がかっていた。
「このことをハッキリさせるまでアンタら全員をココから出さないよ!」
ガタ… ガタ、ガタ
教室の後ろ扉が動く音が静粛な教室内に響いた。
「スミマセンが」
上目づかいの亜希が早口で有無を言わさぬ低い声で、扉の近くにいる生徒たちに話しかけた。
「その扉は閉めたままにしてくれませんか」
恐怖のお願いをされた扉の一番近くにいる生徒は、黙ったまま扉が開けられないよう内側から力を込めた。
「そう言えば役員決めの途中で兼高が教室を出て行ったままだ」
ケゲンな顔をする亜希の方を見て将人が思い出したように話した。
「このまま返事もしないで教室内に彼を入れないとかえって不自然だ。とりあえず扉を開けて兼高を教室に入れないと」
「それなら私がカネタカくんと話をする」
目にものすごい目ヂカラをこめて後ろ扉に向って進む亜希。
☆!
そのスキを狙って、将人は教室の隅にある非常通報ボタンのすぐそばにいる生徒にアイコンタクトを送った。
だが、その一瞬の将人の視線の動きを亜希は見逃さなかった。