第21話 Will
文字数 1,707文字
白く分厚い雲を突き抜け、アウルと飛龍 が組み合ったままで海へと堕ちて行く。
ドローンからの映像は、海洋調査船のコントロールルームの大型ディスプレイにくっきりと表示されている。大きな水飛沫 を上げて、ふたつの機体 の姿が海の中へ消えた。
脳波の測定のためのヘッドギアを着けたまま、私は目を瞑 り、アウルと視界を共有する。
海の中で、目の前に飛龍 の姿が見えた。アウルの腕から逃れようともがいている。
……あなたと戦う気は無いの。この世界には、あなたを受け入れてくれる場所がある。そこでは、あなたにも役割が与えられる。お願い、そこへこの子と一緒に行って欲しいの。
飛龍 の目が紅 く光る。
『俺はあの世界が退屈で出てきたんだ。良い場所があるのなら、連れて行ってくれないか』
私は、暗闇の中で光るフクロウにお願いをする。飛龍 を楽園 に連れて行ってあげて欲しい。仕事を与えてあげて。ゆっくりでいいからね。
『分かったよ、沙織 。この子とエデンに行ってくる』
視界はコントロールルームに戻った。
眩暈 がして、私はヘッドギアを外し、甲斐 さんに訊 く。
「ちょっと気分が悪いから、外に出ても良 いですか。屍人 の粉が飛んでるかなぁ」
「ドローンでは採取されたけど、この艦は現場の風上だから大丈夫だよ。フラフラだけど、ひとりで出られるか?」
「多分、大丈夫です。少し外の空気を吸ったら戻って来ますね」
そう言って、私はよたよたと歩いてコントロールルームを出た。
甲板を歩きながら、周りの海を見渡す。一面の蒼 、蒼 。
綺麗だなぁと思いながら足を動かしていると、突然、足が動かなくなり、そのまま意識を失い倒れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
コウさんは、アナンタを迎えに来たインドの軍艦に、アイラとダーシャと共に乗り、またインドへ旅立って行った。明日人 は、ドイツに設置された連合研究所に出張中だ、そこでは主に屍人の粉の研究をしているらしい。
クロエはアメリカの西海岸で、数体の恐竜に似た機体 を使役して新たな機体 の上陸を阻んでいると聞いている。最初で最後の通信が3週間前で、それ以来、一度も直接話をしていない。いつか会いたいなとは思っている。衛星通信で見たクロエはかなり痩せていたが、今はどうなのだろうか。
はっと気がつくと、私は仰向けになっていた。頭がズキズキ痛む。起きようと思ったが、手にも足にも力 が入らない。
視界に甲斐さんの笑顔が映る。ちょっと顔が近くて、私の胸の鼓動が大きくなった気がした。どうやら、私は甲斐さんに膝枕してもらっているようだ。
「急に倒れて頭を打ったみたいだから、しばらく動かない方が良 いよ」
「動きたくても、手にも足にも力 が入りません」
甲斐さんが微笑む。
「珍しいね。最近はアウルと交信してもこんな風にならなかったじゃないか」
「多分、飛龍 とも交信したからだと思います。アウルと視界の共有もしてたし」
甲斐さんの向こう側には、広く蒼 い空が見える。私はなんとなく、修二 と一緒に河川敷で見た空を思い出していた。まだ修二のことを思い出す自分に少し驚いた。
「まだまだ課題はたくさんあるよな。マザーってのと交信できるようにしなきゃならないし、他にも海底の亀裂があるかも知れないし、世界中の海を勝手に動き回ってる機体 たちをどうするか……」
「圧倒的な手詰まり感ですね。私たちだけじゃ、もう止められないんでしょうか」
甲斐さんは空を眺めて遠い目をした。
「どうかなぁ。俺はまだ諦めてないけど、星宮くんはもうダメだと思う?」
「私は、失った人たちの分まで生きるって決めました。だから最後まで自分の使命を果たすつもりです」
「いいね。君は素敵だな」
こんな近くで、そんな言葉を投げかけてくるのは卑怯だと思う。多分今、私の顔は真っ赤だ。
ようやく、少し手に力 が戻ってきた。私は、ゆっくりと身体を起こす。甲斐さんを向くと、彼はまだ微笑んでいた。
「この地球 が誰のものかは分からないけど、俺たちは、俺たちの出来ることをしよう」
私は頷 いて、決意の笑みを浮かべた。
「もちろんです。絶対にやり遂げてみせます。例え、その先に何があったとしても」
きっと、私たちなら出来る。……そうだよね、アウル。
ドローンからの映像は、海洋調査船のコントロールルームの大型ディスプレイにくっきりと表示されている。大きな
脳波の測定のためのヘッドギアを着けたまま、私は目を
海の中で、目の前に
……あなたと戦う気は無いの。この世界には、あなたを受け入れてくれる場所がある。そこでは、あなたにも役割が与えられる。お願い、そこへこの子と一緒に行って欲しいの。
『俺はあの世界が退屈で出てきたんだ。良い場所があるのなら、連れて行ってくれないか』
私は、暗闇の中で光るフクロウにお願いをする。
『分かったよ、
視界はコントロールルームに戻った。
「ちょっと気分が悪いから、外に出ても
「ドローンでは採取されたけど、この艦は現場の風上だから大丈夫だよ。フラフラだけど、ひとりで出られるか?」
「多分、大丈夫です。少し外の空気を吸ったら戻って来ますね」
そう言って、私はよたよたと歩いてコントロールルームを出た。
甲板を歩きながら、周りの海を見渡す。一面の
綺麗だなぁと思いながら足を動かしていると、突然、足が動かなくなり、そのまま意識を失い倒れた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
コウさんは、アナンタを迎えに来たインドの軍艦に、アイラとダーシャと共に乗り、またインドへ旅立って行った。
クロエはアメリカの西海岸で、数体の恐竜に似た
はっと気がつくと、私は仰向けになっていた。頭がズキズキ痛む。起きようと思ったが、手にも足にも
視界に甲斐さんの笑顔が映る。ちょっと顔が近くて、私の胸の鼓動が大きくなった気がした。どうやら、私は甲斐さんに膝枕してもらっているようだ。
「急に倒れて頭を打ったみたいだから、しばらく動かない方が
「動きたくても、手にも足にも
甲斐さんが微笑む。
「珍しいね。最近はアウルと交信してもこんな風にならなかったじゃないか」
「多分、
甲斐さんの向こう側には、広く
「まだまだ課題はたくさんあるよな。マザーってのと交信できるようにしなきゃならないし、他にも海底の亀裂があるかも知れないし、世界中の海を勝手に動き回ってる
「圧倒的な手詰まり感ですね。私たちだけじゃ、もう止められないんでしょうか」
甲斐さんは空を眺めて遠い目をした。
「どうかなぁ。俺はまだ諦めてないけど、星宮くんはもうダメだと思う?」
「私は、失った人たちの分まで生きるって決めました。だから最後まで自分の使命を果たすつもりです」
「いいね。君は素敵だな」
こんな近くで、そんな言葉を投げかけてくるのは卑怯だと思う。多分今、私の顔は真っ赤だ。
ようやく、少し手に
「この
私は
「もちろんです。絶対にやり遂げてみせます。例え、その先に何があったとしても」
きっと、私たちなら出来る。……そうだよね、アウル。