撒き餌
文字数 2,528文字
先ほどまで、絶え間ない銃声と銃口炎で満ちあふれていた廃ホテルの前は、バベルからの銃撃が止んで、硝煙のニオイがあたりに漂う中、再び夜の闇と静寂に包まれていた。
“ハヤトはポーチから何を取り出そうとしているのかしら?”
隼人が周囲を警戒しつつも一息つくような素振りをしているところを、離れたところからカトリはスコープを通して見ていた。すると、ゴーグルとフェイスガードをはずした隼人は、ポーチからスポーツ飲料のペットボトルを取り出し、落ち着いた様子で飲み始めた。
“こんな時にスポーツ飲料を普通に飲めるなんて、ハヤトは余裕があるわね”
敵の銃撃を止めさせることはできたが、それがいつまで続くか分からないし、敵の人数も分からない。だから、カトリの緊張が続いてノドが乾いていたが、まだ飲み物を口にする気分ではなかった。
“あれ、ハヤトは次に何をするつもりかしら…”
スコープの中では、隼人は自分の銃の銃身の先端を持つと、そこについている消炎消音器を回してはずし始めていた。隼人がなにげなくしていることを見てカトリは目を疑った。
“消炎消音器は射撃の際の銃声を抑えたり銃口の発炎を目立たなくして、自分の居場所を分からなくするモノでしょ?! それを取っちゃうと、射撃の時に敵へ自分の居場所を教えるのと一緒だよ…”
ゴーグルとフェイスガードを付け直した隼人は、はずした消炎消音器を丁寧にしまい込むと、おもむろに銃を建物の入り口の方向に向けていた。
“ビッテ?! ハヤト、ココは使うと目立っちゃう銃を撃つトコじゃないでしょ?”
ダ!ダ!ダ!ダ!
隼人が引き金を引くと、暗闇と静寂を打ち破るかのように、銃声の爆音がジェットのような炎を伴って起こったが、隼人の銃撃に対して建物の中からは何ひとつ反応がなかった。
“何も起きなくて良かった…”
カトリは隼人の攻撃に対する敵からの撃ち返しがなくて安堵した。
ダ!ダ!ダ!ダ!
間髪をあけずに再び、隼人は銃声と銃口炎を巻き起こした。
“ワザワザ敵を刺激するようなことをナゼもう一度やるの?!”
隼人がイミフの行動をするワケが分からずカトリが目をパチクリさせた、その時
バ!バ!バ!バ!バ! バ!バ!バ!バ!バ!
敵のAK-47が低い銃声と盛大な銃口炎を伴って、物陰に潜む隼人に向かって建物の二手から発射されてきた。
“ホラ撃ち返してきちゃった… どうするのハヤト、危ないから無茶はしないでよ!”
何よりも隼人のことを案じ、無事を祈ったカトリだったが、同時に気がついたことがあった。
“もしかして… 敵の隼人への反撃が、逆に居場所が教えてくれている?”
ダ!ダ!ダ!ダ!
少し間があってから、隼人は目立つような銃撃を繰り返した。
バ!バ!バ!バ!バ!
バ!バ!バ!バ!バ!
敵の二人の反撃の銃声はまるで合唱の歌声の様に重なり合っていた。
“わかったよ、ハヤト! ワザと目立っていたんだね!”
カトリは自分の前方の銃口炎目がけて慎重に引き金を引いた。カトリの銃弾は敵の騒々しい銃声に発射の痕跡を完全にかき消されながら、敵の銃口炎のほんの少し上方に直行した。
「ウオォッ!」
その刹那、絶叫があがった。
敵の一人が、絶叫の起こった方向に何が起きたか確認し直すために、棒立ちになっている瞬間を隼人は見逃さなかった。
ダ!ダ!ダ!ダ!
《手応えあり》
周辺を警戒しつつ、隼人は建物の入口に向かって進んで行った。カトリは隼人の進行をバックアップするためにその場で敵の動きがないか、あたり全体に注意を払っていた。
隼人は、建物の中に入ると、絶叫をあげた相手と今までに倒した敵たちのところへ行って結束バンドで手と足をしばりあげた。そして、入口からホール内あたりの安全を確認してからカトリを手招きした。カトリは足を引きずるようにして歩いて行き隼人に合流した。
「最後の一人はどこかに逃げたみたいだな… カトリ、その様子だとやっぱり足を痛めているんだろ?」
隼人の口調は心配そうだった。
「任務とは言え、よくカトリはこんな大変なことに耐えられるな…」
「『人の嫌がることは私がすすんで行いますマリアさま』というか、」
疲労の色は隠せないが、カトリの返事は気力の満ちていた。
「苦労は買ってでもしなさい、っていう感じかな。でも、ワタシの足なら大丈夫よ…
ハヤト、アナタこそ危険だから自分をオトリにするのは止めて!」
自分よりむしろ隼人の身の方を案じているカトリは、逆に隼人に懇願した。
「いや、まずはカトリの足のことだ。今回は二人だけのチームだから、一人でも欠ければ任務は果たせない。カトリの足の負担を軽くするには、オレが囮になって相手を誘い出し、今みたいにオレの後方からカトリの狙撃で黙らせていくしかない。ムリするなよ」
「でも、ハヤトは敵の銃撃に身をさらすことになるじゃない!」
「俺は動き回れるし、イザとなればこのベストを着ているから大丈夫だ、防弾プレート入りだしな。そう言えば、カトリは渡しておいたスポーツ飲料を飲んでいるよな?」
「そんなモノ飲んでいる場合じゃないでしょ、今は銃撃戦の真っ最中なんだから!」
トンデモない、という表情をカトリは即座に浮かべた。
「防弾ベストは気密性の高い繊維でできているから、体の熱と汗を発散しにくいだろ… 放っておくと熱がこもって熱中症や脱水になるぞ。意識してスポーツ飲料の補給しろ」
実際のところ、緊張と防弾ベスト着用の蒸し暑さで、カトリのノドの渇きが限界に近づいていた。気づいてか気づかないでか、カトリのゴーグルとフェイスガードを隼人が取ってくれた。
“別にハヤトはこの任務を単なるスポーツみたいに考えていた訳じゃなかったんだ… それに私のこともちゃんと気づかってくれていたのね…”
カトリはスポーツ飲料を飲みながら、隼人がカトリの体調のことを考えてくれていたことを嬉しく思っていた。
“ハヤトはポーチから何を取り出そうとしているのかしら?”
隼人が周囲を警戒しつつも一息つくような素振りをしているところを、離れたところからカトリはスコープを通して見ていた。すると、ゴーグルとフェイスガードをはずした隼人は、ポーチからスポーツ飲料のペットボトルを取り出し、落ち着いた様子で飲み始めた。
“こんな時にスポーツ飲料を普通に飲めるなんて、ハヤトは余裕があるわね”
敵の銃撃を止めさせることはできたが、それがいつまで続くか分からないし、敵の人数も分からない。だから、カトリの緊張が続いてノドが乾いていたが、まだ飲み物を口にする気分ではなかった。
“あれ、ハヤトは次に何をするつもりかしら…”
スコープの中では、隼人は自分の銃の銃身の先端を持つと、そこについている消炎消音器を回してはずし始めていた。隼人がなにげなくしていることを見てカトリは目を疑った。
“消炎消音器は射撃の際の銃声を抑えたり銃口の発炎を目立たなくして、自分の居場所を分からなくするモノでしょ?! それを取っちゃうと、射撃の時に敵へ自分の居場所を教えるのと一緒だよ…”
ゴーグルとフェイスガードを付け直した隼人は、はずした消炎消音器を丁寧にしまい込むと、おもむろに銃を建物の入り口の方向に向けていた。
“ビッテ?! ハヤト、ココは使うと目立っちゃう銃を撃つトコじゃないでしょ?”
ダ!ダ!ダ!ダ!
隼人が引き金を引くと、暗闇と静寂を打ち破るかのように、銃声の爆音がジェットのような炎を伴って起こったが、隼人の銃撃に対して建物の中からは何ひとつ反応がなかった。
“何も起きなくて良かった…”
カトリは隼人の攻撃に対する敵からの撃ち返しがなくて安堵した。
ダ!ダ!ダ!ダ!
間髪をあけずに再び、隼人は銃声と銃口炎を巻き起こした。
“ワザワザ敵を刺激するようなことをナゼもう一度やるの?!”
隼人がイミフの行動をするワケが分からずカトリが目をパチクリさせた、その時
バ!バ!バ!バ!バ! バ!バ!バ!バ!バ!
敵のAK-47が低い銃声と盛大な銃口炎を伴って、物陰に潜む隼人に向かって建物の二手から発射されてきた。
“ホラ撃ち返してきちゃった… どうするのハヤト、危ないから無茶はしないでよ!”
何よりも隼人のことを案じ、無事を祈ったカトリだったが、同時に気がついたことがあった。
“もしかして… 敵の隼人への反撃が、逆に居場所が教えてくれている?”
ダ!ダ!ダ!ダ!
少し間があってから、隼人は目立つような銃撃を繰り返した。
バ!バ!バ!バ!バ!
バ!バ!バ!バ!バ!
敵の二人の反撃の銃声はまるで合唱の歌声の様に重なり合っていた。
“わかったよ、ハヤト! ワザと目立っていたんだね!”
カトリは自分の前方の銃口炎目がけて慎重に引き金を引いた。カトリの銃弾は敵の騒々しい銃声に発射の痕跡を完全にかき消されながら、敵の銃口炎のほんの少し上方に直行した。
「ウオォッ!」
その刹那、絶叫があがった。
敵の一人が、絶叫の起こった方向に何が起きたか確認し直すために、棒立ちになっている瞬間を隼人は見逃さなかった。
ダ!ダ!ダ!ダ!
《手応えあり》
周辺を警戒しつつ、隼人は建物の入口に向かって進んで行った。カトリは隼人の進行をバックアップするためにその場で敵の動きがないか、あたり全体に注意を払っていた。
隼人は、建物の中に入ると、絶叫をあげた相手と今までに倒した敵たちのところへ行って結束バンドで手と足をしばりあげた。そして、入口からホール内あたりの安全を確認してからカトリを手招きした。カトリは足を引きずるようにして歩いて行き隼人に合流した。
「最後の一人はどこかに逃げたみたいだな… カトリ、その様子だとやっぱり足を痛めているんだろ?」
隼人の口調は心配そうだった。
「任務とは言え、よくカトリはこんな大変なことに耐えられるな…」
「『人の嫌がることは私がすすんで行いますマリアさま』というか、」
疲労の色は隠せないが、カトリの返事は気力の満ちていた。
「苦労は買ってでもしなさい、っていう感じかな。でも、ワタシの足なら大丈夫よ…
ハヤト、アナタこそ危険だから自分をオトリにするのは止めて!」
自分よりむしろ隼人の身の方を案じているカトリは、逆に隼人に懇願した。
「いや、まずはカトリの足のことだ。今回は二人だけのチームだから、一人でも欠ければ任務は果たせない。カトリの足の負担を軽くするには、オレが囮になって相手を誘い出し、今みたいにオレの後方からカトリの狙撃で黙らせていくしかない。ムリするなよ」
「でも、ハヤトは敵の銃撃に身をさらすことになるじゃない!」
「俺は動き回れるし、イザとなればこのベストを着ているから大丈夫だ、防弾プレート入りだしな。そう言えば、カトリは渡しておいたスポーツ飲料を飲んでいるよな?」
「そんなモノ飲んでいる場合じゃないでしょ、今は銃撃戦の真っ最中なんだから!」
トンデモない、という表情をカトリは即座に浮かべた。
「防弾ベストは気密性の高い繊維でできているから、体の熱と汗を発散しにくいだろ… 放っておくと熱がこもって熱中症や脱水になるぞ。意識してスポーツ飲料の補給しろ」
実際のところ、緊張と防弾ベスト着用の蒸し暑さで、カトリのノドの渇きが限界に近づいていた。気づいてか気づかないでか、カトリのゴーグルとフェイスガードを隼人が取ってくれた。
“別にハヤトはこの任務を単なるスポーツみたいに考えていた訳じゃなかったんだ… それに私のこともちゃんと気づかってくれていたのね…”
カトリはスポーツ飲料を飲みながら、隼人がカトリの体調のことを考えてくれていたことを嬉しく思っていた。