ハプニングがハプニング
文字数 2,769文字
「さあ、これを入力してみんなに送っちまおうぜ! あと土曜日だと半日授業で慌ただしくなるから、日曜日を仮の予定日にする提案を付け足しておこう」
「うん! 少しだけ待ってね… えーと…」
志織はチャットアプリを起動させてスマホに文書を打ち始めた。
「…もう一度確認して… 送信!」
気がつくとガラス窓を通して外から入ってくる陽は傾き始めていた。隼人はふと見た時計の示す時刻に目が釘付けになった。
「エッ! もうこんな時間か!」
その声を聞いて志織も自分の時計を見た。
「本当だ! いつの間にこんなに時間が経っちゃったのかしら! 早く帰らないと」
志織と隼人はそれぞれ自分の帰りのしたくを始めた。
「あのね、赤城… チョット話があるんだけど、いいかな?」
片付け中の手を止めた志織が少し上目づかいで、はにかんだ表情になりながら小首を傾けて隼人にたずねた。
“あれっ、前にも同じようなことがなかったか? それともオレの勘違い?”
志織の言葉とモジモジとした態度に隼人はデジャブを感じて戸惑いを隠せなかった。
「赤城、グループじゃなくて直接連絡を取り合いたいんだ! 私と電話番号とメールアドレスを交換しようよ!」
“いや、確かに前にも同じことがあった… 間違いはない…”
「ねえ、赤城… ちょっとの間これを持っててくれない? それと、スマホを貸してもらえないかな?」
志織はカバンにしまう途中だったペンケースとノートを隼人に手渡すと、照れながら手をそのまま差し出した。
“でも、東条はあの時、そうキャンプファイヤーの時のことを今は憶えていない… そしてオレは東条の記憶が消されていることを知っている…”
「………」
志織にどんな顔をすればいいか分らない隼人は、黙って文房具を受け取ってから無表情でスマホを志織に渡した。無言で表情のない隼人の顔を見た瞬間に志織は焦りを感じた。
“しくじったみたい… 私、舞い上がり過ぎてたようね…”
テンションの落ちた志織が隼人のスマホを受け取ってデータ交換のセッティングを始めた。志織の表情の変化に気付くこともなく隼人はずっと作業を黙りながら見ていた。
”隼人が私なんかに好意を持ってくれる訳ないじゃない… 私バカみたい…”
「ゴメン、私一人が調子に乗ってたみたいだね…」
”はしゃいでいた自分が本当に恥ずかしい… 一刻も早くこの場から逃げ出したい…”
設定し終わったスマホを隼人に返すと、志織はうつむいたまま荷物を手にして談話室から早足で出て行った。
“どうしたんだ、東条は? それも急に?”
「東条!」
先程までの態度から豹変した志織に戸惑った隼人は荷物をまとめる途中のままで追いかけたが、志織は振り返りもせずに進むスピードを上げていった。
“速い! ターボでもついてんのか!?”
あわてて後を追った隼人が階段を駆け下りた時、すでに志織は昇降口の下駄箱で上履きから革靴に履き替え終わっていた。
「東条っ、待ってくれ!」
隼人のかけた大声に応ずることもなく志織はまっしぐらに校門に向かって駆けて行った。
「おい、待てって言ってんだろ!」
上履きのまま地面に下りて追いかけ始めた隼人は一気にダッシュして、徐々に志織の後ろ姿に近づいて行った。
“このまま行けば、校門を出たところで東条に追いつける!”
さらに隼人は足を速めたが、後ろの様子が見えるかのように志織もブーストを上げて、隼人が追いつく前に校門を曲がって出て行った。
“もうすぐ、追いつくぞ!”
その時、加速する隼人の目の前を家路を急ぐ自転車が急に横切った。
「うおおおおっ!」
すっ転びそうなくらいバランスを崩しながらも隼人は何とか自転車を避けた。
「危ねーな! 気を付けろ!」
隼人の怒りに気付くこともなく自転車は何事もなかったように去って行った。
「こんなことしてる場合じゃない!」
ホンの数秒で追跡を再開した隼人は校門を駆け出て、志織の曲がって行った方向を見た。
「!!!」
そこにはチョット前まで自分の視界にあった志織の姿はなかった。
「あれっ!? 東条はどこへ行ったんだ!?」
志織の今日の服装や格好を隼人は思い出しながらあたりを見回した。
「東条は今日もいつもどおり長い髪の毛で、制服を着ていて、スクールバックを持っていた… ついさっきまでオレの目の前にいたのに… いったいどこへ行ったんだ…」
隼人はまるで信じられないといった表情でさらに幾度かあたりを見回した。数名の通行人は確認できたが、ついに志織の姿を見つけることはできなかった。納得のいかない顔をしたまま昇降口の方へ戻って校舎内へ入っていった。
上履きのまま外に出ていったので、土で汚れた状態の上履きで校舎内に入り直したところを生活指導の体育の女性教師に見つかって少しばかりのお説教を隼人は頂くことになった。
「東条は急に怒り出すし、ツマラナイことで説教されるし今日の放課後は運がマジに悪かった…」
上履きの裏を水で洗い校舎内の廊下の土の足跡をぞうきんで拭き取らされて気分が沈んだ隼人は、独り言を言いながら、やっとのことで談話室に戻って来た。
「アーア、東条と初めのうちはあんなに面白く作業ができていたのに…」
ついさっきまで志織と楽しく一緒に打上げの準備をしていた同じた机の上に、帰りしたくの途中だった荷物は放置されたままだった。
「あれ? 東条のペンケースとノート、返すの忘れちまったんだ…」
隼人は一緒に作業をしていた時の志織のほてった顔を思い出しながら、今は寂しそうにしているペンケースとノートを見た。
「このままにしておく訳にもいかないし、預かっておいて明日返すことにしよう…」
ため息をつきつつ、隼人は志織のペンケースとノートを自分のバックに入れて昇降口の方へと向かった。下駄箱で靴を履き替えているときに、先程の追跡の一部始終を思い出していた。
「それにしても東条の足の速さはハンパじゃなかった… それに校門を出てから東条の姿が本当に消えてしまっていた…」
隼人の胸中には、何とも言えない不可思議な思いが浮かんできた。
「落ち着いて、私… 訓練のとおりにすれば大丈夫…」
志織は校門を出た時に、壁ぎわでスクールバックから取り出したメガネを素早く身に着け、カワイイ布巻きの髪飾りゴムで髪をまとめてポニーテールにしてから息を整えた。次の瞬間には下を向いてスマホを見つめ、ながら歩きの格好をしてその場から去っていた。
「うん! 少しだけ待ってね… えーと…」
志織はチャットアプリを起動させてスマホに文書を打ち始めた。
「…もう一度確認して… 送信!」
気がつくとガラス窓を通して外から入ってくる陽は傾き始めていた。隼人はふと見た時計の示す時刻に目が釘付けになった。
「エッ! もうこんな時間か!」
その声を聞いて志織も自分の時計を見た。
「本当だ! いつの間にこんなに時間が経っちゃったのかしら! 早く帰らないと」
志織と隼人はそれぞれ自分の帰りのしたくを始めた。
「あのね、赤城… チョット話があるんだけど、いいかな?」
片付け中の手を止めた志織が少し上目づかいで、はにかんだ表情になりながら小首を傾けて隼人にたずねた。
“あれっ、前にも同じようなことがなかったか? それともオレの勘違い?”
志織の言葉とモジモジとした態度に隼人はデジャブを感じて戸惑いを隠せなかった。
「赤城、グループじゃなくて直接連絡を取り合いたいんだ! 私と電話番号とメールアドレスを交換しようよ!」
“いや、確かに前にも同じことがあった… 間違いはない…”
「ねえ、赤城… ちょっとの間これを持っててくれない? それと、スマホを貸してもらえないかな?」
志織はカバンにしまう途中だったペンケースとノートを隼人に手渡すと、照れながら手をそのまま差し出した。
“でも、東条はあの時、そうキャンプファイヤーの時のことを今は憶えていない… そしてオレは東条の記憶が消されていることを知っている…”
「………」
志織にどんな顔をすればいいか分らない隼人は、黙って文房具を受け取ってから無表情でスマホを志織に渡した。無言で表情のない隼人の顔を見た瞬間に志織は焦りを感じた。
“しくじったみたい… 私、舞い上がり過ぎてたようね…”
テンションの落ちた志織が隼人のスマホを受け取ってデータ交換のセッティングを始めた。志織の表情の変化に気付くこともなく隼人はずっと作業を黙りながら見ていた。
”隼人が私なんかに好意を持ってくれる訳ないじゃない… 私バカみたい…”
「ゴメン、私一人が調子に乗ってたみたいだね…」
”はしゃいでいた自分が本当に恥ずかしい… 一刻も早くこの場から逃げ出したい…”
設定し終わったスマホを隼人に返すと、志織はうつむいたまま荷物を手にして談話室から早足で出て行った。
“どうしたんだ、東条は? それも急に?”
「東条!」
先程までの態度から豹変した志織に戸惑った隼人は荷物をまとめる途中のままで追いかけたが、志織は振り返りもせずに進むスピードを上げていった。
“速い! ターボでもついてんのか!?”
あわてて後を追った隼人が階段を駆け下りた時、すでに志織は昇降口の下駄箱で上履きから革靴に履き替え終わっていた。
「東条っ、待ってくれ!」
隼人のかけた大声に応ずることもなく志織はまっしぐらに校門に向かって駆けて行った。
「おい、待てって言ってんだろ!」
上履きのまま地面に下りて追いかけ始めた隼人は一気にダッシュして、徐々に志織の後ろ姿に近づいて行った。
“このまま行けば、校門を出たところで東条に追いつける!”
さらに隼人は足を速めたが、後ろの様子が見えるかのように志織もブーストを上げて、隼人が追いつく前に校門を曲がって出て行った。
“もうすぐ、追いつくぞ!”
その時、加速する隼人の目の前を家路を急ぐ自転車が急に横切った。
「うおおおおっ!」
すっ転びそうなくらいバランスを崩しながらも隼人は何とか自転車を避けた。
「危ねーな! 気を付けろ!」
隼人の怒りに気付くこともなく自転車は何事もなかったように去って行った。
「こんなことしてる場合じゃない!」
ホンの数秒で追跡を再開した隼人は校門を駆け出て、志織の曲がって行った方向を見た。
「!!!」
そこにはチョット前まで自分の視界にあった志織の姿はなかった。
「あれっ!? 東条はどこへ行ったんだ!?」
志織の今日の服装や格好を隼人は思い出しながらあたりを見回した。
「東条は今日もいつもどおり長い髪の毛で、制服を着ていて、スクールバックを持っていた… ついさっきまでオレの目の前にいたのに… いったいどこへ行ったんだ…」
隼人はまるで信じられないといった表情でさらに幾度かあたりを見回した。数名の通行人は確認できたが、ついに志織の姿を見つけることはできなかった。納得のいかない顔をしたまま昇降口の方へ戻って校舎内へ入っていった。
上履きのまま外に出ていったので、土で汚れた状態の上履きで校舎内に入り直したところを生活指導の体育の女性教師に見つかって少しばかりのお説教を隼人は頂くことになった。
「東条は急に怒り出すし、ツマラナイことで説教されるし今日の放課後は運がマジに悪かった…」
上履きの裏を水で洗い校舎内の廊下の土の足跡をぞうきんで拭き取らされて気分が沈んだ隼人は、独り言を言いながら、やっとのことで談話室に戻って来た。
「アーア、東条と初めのうちはあんなに面白く作業ができていたのに…」
ついさっきまで志織と楽しく一緒に打上げの準備をしていた同じた机の上に、帰りしたくの途中だった荷物は放置されたままだった。
「あれ? 東条のペンケースとノート、返すの忘れちまったんだ…」
隼人は一緒に作業をしていた時の志織のほてった顔を思い出しながら、今は寂しそうにしているペンケースとノートを見た。
「このままにしておく訳にもいかないし、預かっておいて明日返すことにしよう…」
ため息をつきつつ、隼人は志織のペンケースとノートを自分のバックに入れて昇降口の方へと向かった。下駄箱で靴を履き替えているときに、先程の追跡の一部始終を思い出していた。
「それにしても東条の足の速さはハンパじゃなかった… それに校門を出てから東条の姿が本当に消えてしまっていた…」
隼人の胸中には、何とも言えない不可思議な思いが浮かんできた。
「落ち着いて、私… 訓練のとおりにすれば大丈夫…」
志織は校門を出た時に、壁ぎわでスクールバックから取り出したメガネを素早く身に着け、カワイイ布巻きの髪飾りゴムで髪をまとめてポニーテールにしてから息を整えた。次の瞬間には下を向いてスマホを見つめ、ながら歩きの格好をしてその場から去っていた。