禁断の果実
文字数 1,896文字
『こちらでアチラさんとも協議をして対応方法を決定した。そのスマホは持ち帰れ。ただし、ごく普通に。そう、忘れ物を見つけて仕方がなく預かり帰ったようにだ。わかるな?』
「えっ、こんな重要な物に注意も払わないで【ごく普通に】ですか? スマホにベタベタ私なんかの指紋がついてもいいんですか?」
秘密が詰まっているかもしれない【お宝】の取扱いにについて隠密裏に進めようとしない上杉陸曹の指示に陽二は納得いかなかった。
「それにお宝の持ち帰り先や保管場所がバベルにバレてもいいんですか? ご存じのとおりアルミホイルで包めば発信電波が遮断できてスマホの動きやありかは捕捉できませんよ、先生?」
『もう一度だけ言うが、下手な小細工は無しだ。掠め取られたのではなく、あくまで【拾われ】そして【預かられた】物とするストーリーだ。となると、ピカピカで持ち主以外の指紋がついていないと不自然だろ。それに常時所在を確認しているスマホの発信が忽然と消え、一定時間の経過後に離れた場所から電波が出てきたら不審だろ。何かしたに違いないと相手に教えているようなものだ』
「それじゃ仕方ないですね…」
陽二の口調は今一つ納得していなかった。
「では、どこに持ち帰り保管するのですか?」
『福本、お前の住み家だ』
「俺の家ですか?」
『お前の住み家は普通の賃貸マンションだ。お前さえ目立つことをしなければ日常人でないことはバレないだろう。普通の人間が、普通に忘れ物を拾い、普通に自宅に持ち帰り、普通に持ち主に返却する、というストーリーなんだ』
「はい… わかりました…」
話への不納得だけでなく、どんどん長引く会話に陽二はシビレを切らしていた。
「先生、もうそろそろ俺は仲間を追いかけないと…」
『わかった… 今回もアチラさんの作戦行動に対して我々はサポートに徹さなければいけない。【積極的な】コチラのたずさわりはアチラも快くは… いつも十分にバックアップをしてやれなくて申し訳ない』
「先生が悪い訳じゃないから謝らないでください。全力を出さないように気を付けて、これから行ってきます。俺には先生達から教わったことだけでサポートは十分ですよ」
『そう言ってもらえるだけで… 福本、気をつけろ』
「はい」
自分のスマホを終話させて陽二は次の行動への段取りを考え始めた。
「まず、廃ホテルの場所を確認しないと」
陽二は志織のスマホを手に取った。
「肝試しの時、俺の気晴らしにスマホを見せてくれた時の数字だとすると…」
志織は手で隠しながらパスコードを打っていたが、画面に集中する志織の目を盗んでパスコードの配置と順番を横目で見ていたので、陽二はそれを思い出しながら入力してロックを解除し画面を見る。
「目標の廃ホテルの情報は、っと…」
志織のスマホの検索履歴を見ると廃ホテルのことがすぐにわかった。
「ここまでわかれば後は自分のスマホで調べりゃいいか… いくら自然にと言ってもこのスマホを使いっぱなしって訳にはいかないからな…」
といいながらも、一度開けた志織のスマホの中味のことが陽二には気になって仕方がなかった。禁断の果実の誘惑は強い。
「本人がしそうなことなら平気だろ、ちょっと見るだけなら大したことないよな… ホンの少し前にチャットでトークしているじゃないか!」
陽二は周りには誰もいないのに息を詰めていた。
♩ ♫ ♩ ♫ ♩ ♫
突然、かたわらに置いた陽二のスマホの着信音が静かな室内に鳴り響いた。
「!!」
驚いた陽二は動揺しながら自分のスマホを手に取った。
「ハ、ハイ! 福本です!」
『そんなにあわててどうした、福本? もう目的地に向かっていたのか?』
「ハ、ハイ、そんなところです!」
『たった今、お前の家にスマホの情報のサルベージのプロが行くことになった。だから
スマホ本体に触れてもいいが余計なことはするな。それだけを伝えたかったんだ。忙しいところ悪かった』
「了解しました。それでは私は現場に急行します!」
陽二は自分のスマホを終話しズボンのポケットに入れた。
“ちょっと遅いんだよ… まあ今のはギリセーフだよな… それに普通を装うとか言って、結局は俺の家を利用するつもりか? おっと、こんなに時間が! もう本当に追いかけないと!”
そして気兼ねしながら志織のスマホを上着のポケットに入れた。
“こんな俺がコレを本当に持ってていいのかよ?”
このスマホが日頃は志織の身に触れているかと思うと、そのぬくもりが伝わって来ているような気がした。それで陽二はうれしくもあったが、同時に何となく申し訳がなかった。
「えっ、こんな重要な物に注意も払わないで【ごく普通に】ですか? スマホにベタベタ私なんかの指紋がついてもいいんですか?」
秘密が詰まっているかもしれない【お宝】の取扱いにについて隠密裏に進めようとしない上杉陸曹の指示に陽二は納得いかなかった。
「それにお宝の持ち帰り先や保管場所がバベルにバレてもいいんですか? ご存じのとおりアルミホイルで包めば発信電波が遮断できてスマホの動きやありかは捕捉できませんよ、先生?」
『もう一度だけ言うが、下手な小細工は無しだ。掠め取られたのではなく、あくまで【拾われ】そして【預かられた】物とするストーリーだ。となると、ピカピカで持ち主以外の指紋がついていないと不自然だろ。それに常時所在を確認しているスマホの発信が忽然と消え、一定時間の経過後に離れた場所から電波が出てきたら不審だろ。何かしたに違いないと相手に教えているようなものだ』
「それじゃ仕方ないですね…」
陽二の口調は今一つ納得していなかった。
「では、どこに持ち帰り保管するのですか?」
『福本、お前の住み家だ』
「俺の家ですか?」
『お前の住み家は普通の賃貸マンションだ。お前さえ目立つことをしなければ日常人でないことはバレないだろう。普通の人間が、普通に忘れ物を拾い、普通に自宅に持ち帰り、普通に持ち主に返却する、というストーリーなんだ』
「はい… わかりました…」
話への不納得だけでなく、どんどん長引く会話に陽二はシビレを切らしていた。
「先生、もうそろそろ俺は仲間を追いかけないと…」
『わかった… 今回もアチラさんの作戦行動に対して我々はサポートに徹さなければいけない。【積極的な】コチラのたずさわりはアチラも快くは… いつも十分にバックアップをしてやれなくて申し訳ない』
「先生が悪い訳じゃないから謝らないでください。全力を出さないように気を付けて、これから行ってきます。俺には先生達から教わったことだけでサポートは十分ですよ」
『そう言ってもらえるだけで… 福本、気をつけろ』
「はい」
自分のスマホを終話させて陽二は次の行動への段取りを考え始めた。
「まず、廃ホテルの場所を確認しないと」
陽二は志織のスマホを手に取った。
「肝試しの時、俺の気晴らしにスマホを見せてくれた時の数字だとすると…」
志織は手で隠しながらパスコードを打っていたが、画面に集中する志織の目を盗んでパスコードの配置と順番を横目で見ていたので、陽二はそれを思い出しながら入力してロックを解除し画面を見る。
「目標の廃ホテルの情報は、っと…」
志織のスマホの検索履歴を見ると廃ホテルのことがすぐにわかった。
「ここまでわかれば後は自分のスマホで調べりゃいいか… いくら自然にと言ってもこのスマホを使いっぱなしって訳にはいかないからな…」
といいながらも、一度開けた志織のスマホの中味のことが陽二には気になって仕方がなかった。禁断の果実の誘惑は強い。
「本人がしそうなことなら平気だろ、ちょっと見るだけなら大したことないよな… ホンの少し前にチャットでトークしているじゃないか!」
陽二は周りには誰もいないのに息を詰めていた。
♩ ♫ ♩ ♫ ♩ ♫
突然、かたわらに置いた陽二のスマホの着信音が静かな室内に鳴り響いた。
「!!」
驚いた陽二は動揺しながら自分のスマホを手に取った。
「ハ、ハイ! 福本です!」
『そんなにあわててどうした、福本? もう目的地に向かっていたのか?』
「ハ、ハイ、そんなところです!」
『たった今、お前の家にスマホの情報のサルベージのプロが行くことになった。だから
スマホ本体に触れてもいいが余計なことはするな。それだけを伝えたかったんだ。忙しいところ悪かった』
「了解しました。それでは私は現場に急行します!」
陽二は自分のスマホを終話しズボンのポケットに入れた。
“ちょっと遅いんだよ… まあ今のはギリセーフだよな… それに普通を装うとか言って、結局は俺の家を利用するつもりか? おっと、こんなに時間が! もう本当に追いかけないと!”
そして気兼ねしながら志織のスマホを上着のポケットに入れた。
“こんな俺がコレを本当に持ってていいのかよ?”
このスマホが日頃は志織の身に触れているかと思うと、そのぬくもりが伝わって来ているような気がした。それで陽二はうれしくもあったが、同時に何となく申し訳がなかった。