お宝発見
文字数 1,627文字
「やっちまった…」
誰もいなくなってシンとした女子の宿泊部屋の中で、陽二はうつむいてため息をついた。
「あいつらと一緒にいる時間が長いからつい調子に乗っちまったよ…」
オリエンテーション合宿はとても楽しく、目立たないことや任務のことなんか全部頭からなくなっていた。
陽二は年下の連中と一緒にいるうちについつい自分もその仲間になったつもりになっていた。周りにはたくさんの女子がいて舞い上がってた。本当のところ今までこんな楽しい時間を過ごしたことは自分にはなかった。
「二人で出かけて三人になって帰って来るか… それにしても品がなかったよな… 柏木にもいつもこんな気持ちにさせているのかな…」
ほぼ100%男子しかいない原隊ではなんでもない、気の利いたジョークのつもりだったがTPOもわきまえなかったから剛介を挑発しただけでなく女子たちにも完全にあきれられた。
「すぐに調子に乗り過ぎなんだよ、俺… !」
いつもの失敗した時のように負の思考ループに自分が陥っていることに陽二は気がついた。
「切り替え、切り替え! これからできるベストは何だ?」
自分が失敗した時には落ち込み過ぎずに、次に同じ思いをしなようにその失敗を活かすことを陽二は教え込まれていた。
「竜崎たちはこんな夜中に廃ホテルに行くって言っていた… でも俺は肝試しの時にその廃ホテルに行っていない… どうする?」
廃ホテルの場所への手がかりを探そうと陽二は部屋の中を見回した。部屋の隅には女子たちのカバンやナップザックがまとめて置いてあった。そのうちにチャックが開いたままで肌着?の一部がはみ出していた。
「(う)ほほ♡ カバンが開いたままなら俺が開けた訳じゃないから覗き見や罪にはならないよな… これもみんなを助けに行くためだし…」
直前の反省もどこへやら、都合よく自己正当化した陽二は強力な電磁石に引きつけられるようにカラダが荷物の方へ引っ張られた。
「!!」
その時、床に落ちているスマホが目に飛び込んできた。
「これは… 志織のスマホ… さっき竜崎と俺のいさかいの間に入った時に床に置いて忘れてったんだ…」
自分のマークしている対象のスマホ… 間違いなく宝の宝庫だ…
しかし、この時の陽二の気持ちは興奮状態にはなかった。むしろ逆に氷のように冷静だった。
「このスマホ、持ち帰るべきか、このままにしておくか、それが問題だ…」
持ち帰れば計り知れない価値ある情報が得られる可能性がかなり高い。今後の作戦立案にも大いに役立つだろう。
一方、バベルで超貴重品と言われている(記録されている情報も含めて)のスマホが行方不明となったらどうなるだろう…
預け受けた者は尋問を受けるだけではなく、ソレナリの責任を問われるだろう。もちろん預け受けた者だけではなく、管理監督者にも問題が波及するに違いない。自分の原隊での発砲訓練後の空薬きょうを見失ったどころの騒ぎじゃ(それでもかなりの大騒動なのだが)済むはずがない…
「とにかくこんな時はまず先生に相談だ」
陽二は自分のスマホを取り出して電話をかけた。
『上杉だが、福本何かあったか?』
「上杉先生、いえ一等陸曹、相談したいことがあります。こんな時間にすみません」
『いやかまわない。どうしたんだ? 何があった?』
陽二は自分の観測対象の置き忘れられたスマホのこと、その確保から予想される影響について簡潔に報告・連絡した。
『その他に連絡することはないか?』
「この話の直前に私と同じ班の生徒たちがこの宿泊施設から少し離れたところにある廃ホテルに向かって出かけているのです」
『こんな夜中にか?』
「はい、詳しい説明は省きますが、赤城隼人・カトリーナクライン・竜崎剛介・江間絵馬そして観測対象の東条志織の5名です」
『そうか… 今の話を踏まえてこちらでも対応を検討したいので少し時間が欲しい。しばらく待ってくれ』
程なくして陽二のスマホが鳴った。