第３１話

もう逃げられない。体が動かない。誰も私を……。
「くるみちゃん逃げて！」「くるみちゃん！」
男の手が、私のスマホを奪う直前、聞き覚えのある声がした。瞬間的に視線が声を追う。声の先には……カフェの常連さんたちがいたんだ。誰も信じられなくなって、固まったのは思考回路じゃない。私の精神的な面が邪魔して体が動かなくなってたんだ。でも、頭は今も冷静に物事を見極め、判断している。時間はもうすぐモーニングの時間。常連さんたちは、ここを通ってカフェに行くんだ。その道中明らかに様子がおかしい私たちを見つけて、すぐに通報してくれた。一瞬で頭がどんどん回転していく。そして……。
「いったー。」
着地ミスった。私はスマホをお腹の前でしっかり持つと、体を曲げた。そのまま男の横をするりと抜けるように、転がったんだけど……。運動神経そこまで良くなくって、着地に失敗。うー。痛い。
「確保！！」
警察の人の声と共に、男は腕を取られ、地面に叩きつけられる。店長と浩平さんを捕まえていた大男達も、手錠をかけられている所だった。
「くるみ！」
「浩平さん！わっ！」
浩平さんが座り込んでる私にダイブ！って感じで抱き着いてくる。ちょ、さすがに勢いありすぎ！私はそのまま後ろに倒れかけた。
「おっと！」
店長が私の腕を取って、バランスを保ってくれた。ふぅ、助かった。
「くるみ、良かった！本当に良かった！」
「店長こそ！怪我無いですか！？」
「うん、大丈夫だよ。」