第1話『水しぶきで崩れた詐欺メイク』
文字数 550文字
ぜんぶあのイルカのせいだ。このぐしゃぐしゃな顔もうまくいかない恋も。
トイレの個室に駆け込んで、スマホのカメラを自撮りモードにした。画面をのぞきこむと、5時起きして作りこんだアイメイクが薄い墨汁をこぼしたように、にじんでいる。
「パンダ目になってる……」
終わった、と思った。
動画サイトをたくさん見て研究した、一重が二重に見える詐欺メイクを施した顔は完璧だったはずなのに。
私はいつもこうだ。肝心な時に失敗する。コテでカールした髪も、水しぶきで濡れてぼさぼさになってしまった。
顔を作り直さなきゃ。万が一のために、メイク用品一式を入れたポーチを持ってきて本当に良かった。
トイレの個室のドアをそっと開けると、ラッキーなことに鏡の前のゾーンには誰もいない。パウダーをはたいて、グロスを塗りなおす。
まだ、完璧じゃないけど、やらないよりはマシかな……。
自分を落ち着かせるために深呼吸したはずなのに、頭の中にイルカショーで起きた事件がフラッシュバックする。 あんなに男の子にやさしく撫でられたのははじめてだ。彼に触れられていた部分が、蒸気が出そうに熱かった。
「キレイな瞳だったな……」
蘇ってくる記憶と、沸き上がってくる胸の鼓動の高鳴りを抑えて、私はトイレから飛び出した。
トイレの個室に駆け込んで、スマホのカメラを自撮りモードにした。画面をのぞきこむと、5時起きして作りこんだアイメイクが薄い墨汁をこぼしたように、にじんでいる。
「パンダ目になってる……」
終わった、と思った。
動画サイトをたくさん見て研究した、一重が二重に見える詐欺メイクを施した顔は完璧だったはずなのに。
私はいつもこうだ。肝心な時に失敗する。コテでカールした髪も、水しぶきで濡れてぼさぼさになってしまった。
顔を作り直さなきゃ。万が一のために、メイク用品一式を入れたポーチを持ってきて本当に良かった。
トイレの個室のドアをそっと開けると、ラッキーなことに鏡の前のゾーンには誰もいない。パウダーをはたいて、グロスを塗りなおす。
まだ、完璧じゃないけど、やらないよりはマシかな……。
自分を落ち着かせるために深呼吸したはずなのに、頭の中にイルカショーで起きた事件がフラッシュバックする。 あんなに男の子にやさしく撫でられたのははじめてだ。彼に触れられていた部分が、蒸気が出そうに熱かった。
「キレイな瞳だったな……」
蘇ってくる記憶と、沸き上がってくる胸の鼓動の高鳴りを抑えて、私はトイレから飛び出した。