第4話『ホテルに戻ると?!』
文字数 1,851文字
ホテルに戻ると、みきがいない。
スタッフから聞くと、どうやら体調を崩してしまって先に帰宅したらしい。つまり、今日はかりんと二人部屋になる。
ベットに腰を降ろすと、疲れがどっと押し寄せる。夜からは、新メンバーのはると君も加わって、夕食はいつも以上に盛り上がっていた。
「菜々って本当に会うたび雰囲気違うよね!」「今日は違う人みたい」「目の周りちょっと赤くなってる……?」矢継ぎ早に質問されるのにも、大分慣れてきた。
不思議と、ユウリくんのことにはかりんは触れなかった。あえて聞かないようにしているのかもしれない。
今日は先週と違って、明るさを抑えた大人っぽいメイクにしている。ちょっとかりんのマネをしてみたのは内緒だ。今日で私は16才になる。メンバーの中で私だけが高1で、他のメンバーは高2だったりする。
花粉が飛んでいたのか、部屋に戻ってからくしゃみを何度もしてしまった。本当はみんなが寝てしまってからメイクを落としたかったけど、早く落とさないと明日には赤くなってしまうかもしれない。心配されるのも聞かれるのも嫌だな……。
かりんが「両親に電話してくるね」と言ってホテルの部屋を出ていってから、もう30分は経っている。この隙にメイクを落として頭から布団を被って寝たふりをしてしまおう。そして朝早くメイクをすれば素顔はバレないはず。
洗面台に行ってメイクを落とす。すると部屋のドアがノックされた音が聞こえる。念のためにハンカチで顔を隠しておこう……。
すると洗面台の消灯を含めて、部屋の照明が一気に落ちた。
停電……?
とりあえず洗面台から出てみるけど、暗闇に目が慣れなくてよく見えない。
パーン!
突然、クラッカーの音がなる。拍手が沸き起こり、ふいに電気がつく。
「菜々、Happy Birthday!」
見えたのは、クラッカーを持った、満面の笑みのかりん。え?!他に誰かいるの? 段々と目が慣れて周りが見える。拍手をしている健太くんと大地くん、新メンバーのはるとくん。そして、小さなケーキをもったユウリくん。
拍手が終わった後に残されたのは、ターバンで前髪を上げて眉毛がない、すっぴんの私だった。
ターバンを超高速で取ると、前髪がはらりとおでこに重なった。
「みんなありがとう……」必死の想いで感謝を伝えた。けど──
みんなに祝ってもらった嬉しさとすっぴんを見られた恥ずかしさが重なって、目の前がぐらぐらする。また、考える前に言葉が出てきてしまう。
「ご、ごめん、私メイクしてないと眉毛なくて、一重なんだよね。だから……」
口をついて出てしまった言葉は、言い訳だった。誰も私の見た目を非難なんてしていないのに。お祝いの言葉をかけてくれているだけなのに。
けれど、完全なすっぴん状態を見られたのは、残念ながら本当のこと。この世の終わりだ……。
「きゅ、急に来ちゃってごめん!」とかりんが言う。
気まずい空気の中で、写真も撮らず、ケーキをささっとユウリくんが切り分けて、各人で食べることにして、みんなひっそりと解散した。
みんながいなくなった後、部屋にかりんと二人になった。
「ごめんね、菜々に少しでも喜んでもらいたくて」そう言ってかりんは泣いている。
それを見て、私も泣いた。明日で恋チケットを使ってしまって会えなくなってしまうメンバーもいるかもしれない。そのことをわかって、このメンバーでの最後の思い出作りをしようとしてくれたかりんの気持ちが痛いほど伝わってきたから。
それから、かりんとはたくさんの話をした。自分以外の女子メンバーの全員が可愛いと思って背伸びしていたこと。ユウリくんのことが気になっていたけど、何も話せない自分。かりんは最後まで黙って聞いてくれていた。
私は、ユウリくんに会うたびにときめきを感じていた気持ちを、パウダーのコンパクトに閉じ込めていた。けれど、ユウリくんへの気持ちはどんどん大きくなっていて、メイクでも覆い隠せないぐらいに膨らんでいた。
気持ちは通じ合うかどうかなんて、わからない。
装うことで、ごまかしていた私のなけなしの自信。でも、それじゃいけない。自分をぶつけて気持ちを伝えないといけない。
期待したら傷ついてしまうから、ずっと期待しないように自分の気持ちを含めて、メイクで覆い隠していた。だけど一番の問題は、この地味な顔じゃない。傷つきたくなくて、閉じこもっている、私の気持ちなんだ……!
スタッフから聞くと、どうやら体調を崩してしまって先に帰宅したらしい。つまり、今日はかりんと二人部屋になる。
ベットに腰を降ろすと、疲れがどっと押し寄せる。夜からは、新メンバーのはると君も加わって、夕食はいつも以上に盛り上がっていた。
「菜々って本当に会うたび雰囲気違うよね!」「今日は違う人みたい」「目の周りちょっと赤くなってる……?」矢継ぎ早に質問されるのにも、大分慣れてきた。
不思議と、ユウリくんのことにはかりんは触れなかった。あえて聞かないようにしているのかもしれない。
今日は先週と違って、明るさを抑えた大人っぽいメイクにしている。ちょっとかりんのマネをしてみたのは内緒だ。今日で私は16才になる。メンバーの中で私だけが高1で、他のメンバーは高2だったりする。
花粉が飛んでいたのか、部屋に戻ってからくしゃみを何度もしてしまった。本当はみんなが寝てしまってからメイクを落としたかったけど、早く落とさないと明日には赤くなってしまうかもしれない。心配されるのも聞かれるのも嫌だな……。
かりんが「両親に電話してくるね」と言ってホテルの部屋を出ていってから、もう30分は経っている。この隙にメイクを落として頭から布団を被って寝たふりをしてしまおう。そして朝早くメイクをすれば素顔はバレないはず。
洗面台に行ってメイクを落とす。すると部屋のドアがノックされた音が聞こえる。念のためにハンカチで顔を隠しておこう……。
すると洗面台の消灯を含めて、部屋の照明が一気に落ちた。
停電……?
とりあえず洗面台から出てみるけど、暗闇に目が慣れなくてよく見えない。
パーン!
突然、クラッカーの音がなる。拍手が沸き起こり、ふいに電気がつく。
「菜々、Happy Birthday!」
見えたのは、クラッカーを持った、満面の笑みのかりん。え?!他に誰かいるの? 段々と目が慣れて周りが見える。拍手をしている健太くんと大地くん、新メンバーのはるとくん。そして、小さなケーキをもったユウリくん。
拍手が終わった後に残されたのは、ターバンで前髪を上げて眉毛がない、すっぴんの私だった。
ターバンを超高速で取ると、前髪がはらりとおでこに重なった。
「みんなありがとう……」必死の想いで感謝を伝えた。けど──
みんなに祝ってもらった嬉しさとすっぴんを見られた恥ずかしさが重なって、目の前がぐらぐらする。また、考える前に言葉が出てきてしまう。
「ご、ごめん、私メイクしてないと眉毛なくて、一重なんだよね。だから……」
口をついて出てしまった言葉は、言い訳だった。誰も私の見た目を非難なんてしていないのに。お祝いの言葉をかけてくれているだけなのに。
けれど、完全なすっぴん状態を見られたのは、残念ながら本当のこと。この世の終わりだ……。
「きゅ、急に来ちゃってごめん!」とかりんが言う。
気まずい空気の中で、写真も撮らず、ケーキをささっとユウリくんが切り分けて、各人で食べることにして、みんなひっそりと解散した。
みんながいなくなった後、部屋にかりんと二人になった。
「ごめんね、菜々に少しでも喜んでもらいたくて」そう言ってかりんは泣いている。
それを見て、私も泣いた。明日で恋チケットを使ってしまって会えなくなってしまうメンバーもいるかもしれない。そのことをわかって、このメンバーでの最後の思い出作りをしようとしてくれたかりんの気持ちが痛いほど伝わってきたから。
それから、かりんとはたくさんの話をした。自分以外の女子メンバーの全員が可愛いと思って背伸びしていたこと。ユウリくんのことが気になっていたけど、何も話せない自分。かりんは最後まで黙って聞いてくれていた。
私は、ユウリくんに会うたびにときめきを感じていた気持ちを、パウダーのコンパクトに閉じ込めていた。けれど、ユウリくんへの気持ちはどんどん大きくなっていて、メイクでも覆い隠せないぐらいに膨らんでいた。
気持ちは通じ合うかどうかなんて、わからない。
装うことで、ごまかしていた私のなけなしの自信。でも、それじゃいけない。自分をぶつけて気持ちを伝えないといけない。
期待したら傷ついてしまうから、ずっと期待しないように自分の気持ちを含めて、メイクで覆い隠していた。だけど一番の問題は、この地味な顔じゃない。傷つきたくなくて、閉じこもっている、私の気持ちなんだ……!