13. 後日譚

文字数 1,769文字

◆後日譚:唯青月 二十三日

 ごろごろごろごろ……。ごろごろごろごろ……。
 それは作業台の上をご機嫌に転がり回っている。全く喋らないのにご機嫌だと分かることが不思議で、俺は一歩引いてじろじろ観察してみる。
 自走するスイカ。こいつが俺の使い魔らしい。

 新しい魔法の授業は一昨日から始まった。
「カルカリナ、お前は基本的な魔法は一通りできてる。良く頑張ってんな」
「ありがとうございます! センセのおかげッス!」
「謙虚でよろしい。そう、他者の助力を素直に受けとることも時には必要だ。つーことで今日からは使い魔を創り出す魔法を教えるぜ」
「センセのイグアナみたいなやつですね」
 使い魔とは、魔術師によって生み出された存在で、別の意思を持って魔術師を助けてくれるもの。先生の使い魔は長さが2mぐらいあるでっかいイグアナだ。名前は先生以外誰も知らないんだけど、それは魔法的な意味合いじゃなくて『こいつはシャイなんだ』とか。
 そういう、使い魔とは何かという基礎知識から始まり、歴史や役割や分類の講義がざっと終わったのが一日目。二日目は使い魔を創る手段を片っ端から試してみて、俺は片っ端から失敗したのだった。

「うーっ……どの方法も上手くいかないッスよセンセ」
 使い魔の見た目や性質が色々であるように、その創り方もそれぞれだった。思い入れの深い雑貨を媒体にしたり。土をこねて人型にしたり。変わったのだと、妖精と交渉して、物に宿ってもらうだとか。
 で、魔法の勉強をずっと共にしているペンはうんともすんとも言わなかったし、泥人形は泥のままだったし、妖精なんて見えもしなかった。
「魔力の捉え方のクセからして、お前は金属結晶あたりとは相性が良いと思ったんだがな……。ま、簡単に諦めねんじゃねえ。手応えありそうだと感じたのを何度も試してみろ」
 紋様を描いた紙の上に黄鉄鉱(パイライト)の塊を置いて、ツンとくる香を焚き、古めかしい呪文を唱える。ペンダントから落ちた大きめの魔力の粒は黄鉄鉱(パイライト)の四角い角に当たって、すこーんとどこかに飛んでいった。
「う゛ーっ……」
「……疲れの影響もあるかもしれん。だから気長に、な。他の方法も探してみるからよ」
 同情の滲む先生の声に慰められ、ふて寝したところで二日目――昨日は終了。
 それで三日目の今朝、ぐっすり眠ってる俺の腹に飛び乗って来たのがこのスイカである。

 ごろごろごろごろ……。ごろごろごろごろ……。
「おそらく、昨日最後にやった魔法の流れ弾が、庭のスイカに当たったんだろう」
「そ、そんなんで使い魔ってできるッスか!? 同じ使い魔でも金属と植物とじゃ、創るための魔法は全然違うってセンセ言ってましたよね?」
「つってもできちまってるしなあ……。どんな物事にも例外はある。勉強になったろ?」
 ごろごろごろ……?
 大騒ぎする俺を見かねたのかスイカは困ったように転がる。動きだけで気持ちが伝わってくるんだから、使い魔ってのは本当みたいだ。
「うーん、それもそっか……? 応えてくれてありがとう。これからよろしくね」
 ぽん。軽く叩くと実が詰まった音がした。
「じゃあ名前付けてやりな。時間掛けて良いから」
 ごろごろごろごろ……。ごろごろごろごろ……。
 スイカが転がって応援してくれる。すると、ぐんと集中力が高まる気がした。
 ――えっ、使い魔は魔術師を助けてくれるって教わったけど、調合の手伝いとかじゃないの? そんな謎パワーなの?

 こうして俺の薬草魔術師としての修行の背後には、転がるスイカが新たに加わったのだった。
 スイカ、見慣れるとすごく可愛い。


◆使い魔の作成(一部)
使い魔の形状:クラブQ→「球体型(光球や浮遊スフィアなど)」
魔術師との関係性:ダイス目3→「親愛:家族のような存在だと思って接している」

・選択ルールは今回使っていなかったのですが、使い魔可愛いなあと思い作ってみました。これはプレイログじゃなくて、あくまでおまけということで。
・ランダム表には「植物型」が別にあるので、スイカはそっちのカテゴリなんじゃないかと思いつつ……自走するスイカが思い浮かんだ時点でそれしか考えられなくなったためスイカです。
・能力値まで決めてないけど多分<耐毒>1です。少年は今後も自分で毒見しようね。


 これで本当に終わりです。ここまで読んでいただきありがとうございました!


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