第38話 ジョイント・コンサートの挨拶で

文字数 1,530文字

◇◇ ジョイント・コンサートの挨拶で ◇◇


「中学生と、その保護者の皆様。本日は、ジョイント・コンサートに来ていただき、ありがとうございます。
私は、U中学出身の渡辺エマと申します。中学時代は、○○先生にご指導いただきました。」

あちこちからパチパチと拍手が起こるのは、U中学の生徒や、関係者たちなのだろう。

「いま、私は、普門館高校吹奏楽部で、この、ホルンの、パートリーダーをさせていただいてます。...監督には内緒ですが...はじめに、ちょこっと、吹かせてな..」

というなり、心地よい曲を吹き始めた。

舞台袖にいた監督が、(ええっ、聞いてないぞ)という、ギョッとした表情をした。同級生の他の部員たちは、ニヤニヤしだした。が、数秒後、監督もニコニコしはじめた。

―――軽快なテンポに乗って、ホルンが歌いまくっているのだ。

演奏は30秒間ほどつづいた。

「ああ、よかった...。今のはシューマンの『4本のホルンと管弦楽のためのコンツェルトシュテュック』からです。ね、演奏って、楽しいでしょ?」


拍手が起こる。
素直にウンウン頷いている中学生がいる中、驚愕の目で口あんぐりの生徒もいる。おそらく、ホルンの中学生だろう。この難曲をサラッと吹いてしまっているところに、普門館のレベルを思い知らされたようだ。

招待された何人かの中学校の吹部顧問の先生方も、「ほう..」という表情を浮かべ、普門館での日ごろの指導レベルが、伝わったようだ。また、このような場でゲリラ的な演奏が許される状況から、吹部の風通しのよさも伝わったようである。


「私が思う吹奏楽の楽しいところは、まず、みんなに感動してもらえるように吹けるようになったときです。普門館では、先生方や先輩方が丁寧にご指導くださるし、外部講師としてプロの方からもご指導いただいています。また、ネットを使った個別練習ブログラムも充実していて、ほんとうに、恵まれています。
それから、うちのネット動画を見られたことのある方も多いのでは...と思いますが、普門館吹部では、他校では経験できないような、大舞台での演奏とか、メディアへの出演なんかもさせてもらっています。...じつは、わたしも、化粧品のCMに、ちょこっと、0.5秒、映りました..」

(会場から笑い)

「じっさい、中にいると、みんないい人たちばかりで、指導してくださる先生方も、本当に私たちのことを思って、ご指導くださいます。私たちのことを、いつも本当に、親身になって考えてくれているのです。」

(拍手が起こる)

「一人ひとり、声掛けして下さいますし、部のミニ旅行とか、かくし芸大会、コスプレ・パレードなんかもやらせてもらえるし、本当に、うちの吹部の風通しは良いんです。かくし芸大会のときなんかは、『君ら、練習とどっち力入れとるねん?』いわれましたけど..。」

(笑い)

「団結力は、どこにも負けません。また、有難いことに、全国各地、さらに海外からも演奏でよばれて、行った先々で喜んでいただき、大歓迎もしてくださるので、本当に有難いです。だからこそ、本番で、みんな心からの歓びの気持ちをもちながら演奏できるのです。幸せを届けられて、そして、自分たちも幸せになれるのです。
こうして、日々の練習にも力が入り、マーチングコンテストでは、この秋、5年連続、全国ゴールド金賞をいただくことができました。」

(おおーっという声とともに、大きな拍手)

「...ありがとうございます。中学生のみなさん、ぜひ、私たちとともに、吹奏楽で幸せになりませんか。普門館高校吹奏楽部は、皆さんの参加を、心よりお待ちしています。」

監督がニコニコしながら舞台の袖から一歩姿を現し、エマと目線を合わせてから、そしてエマとともにお辞儀をした。


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