第15話 僕だけが愛でる名月
文字数 1,466文字
大人しい子だな、この子が本当に彼女の妹なのだろうか。
それがその子、守藤月音 と初めてであった時の印象。
姉である陽奈美とは正反対とも言えるほど、違う性格。
陽奈美は、居るだけでその場を明るくさせる雰囲気と存在感がある。
だけど月音は大人しく控えめで、自らが率先して前に出る性格ではない。
好奇心が旺盛で、活発で同じ所にずっといる事が出来ないという陽奈美と違って、こちらが声をかけなければずっと一人で、日陰に腰を下ろして絵草紙などを見続けているような子だ。
見た目も、くりくりとした大きな目の姉と違い、切れ長でややつり上がった目は性格が強 いのではないかと思わせる雰囲気を醸し出している。
併せて冷たい印象も与えてしまっている。
頬から顎にかけての線も、どちらかというと陽奈美は可愛らしい少女という言葉が、ぴったりくるような、ふっくらとしたやや丸みを帯びた形なのに、月音は頬から顎にかけても鋭利な刃物のような鋭さを感じさせる。
総じて冷たくて、気が強くて、近寄りがたい雰囲気というのが、初対面の月音の印象だった。
更に驚く事は、全く違う容姿の二人なのに、この姉妹は双子だという事だ。
しかし何度も顔を合わせるうちに、彼女の性格がそのような容姿とは全く違うものだと気がついた。
月音はあまり自分を主張する性格ではないが、しかし思いやりと気遣いの出来る優しい性格の持ち主だった。
いつも元気に駆け回る姉の後ろをちょこちょことついて回り、姉が好奇心の赴くままにあちこちへと動き回る時は、木の陰などに腰を下ろして、姉の姿をぼんやり眺めているか、絵草紙を夢中で読むかしている。
陽奈美が遊びに夢中になり、いつまでたっても戻ってこない時などは、僕が月音の話し相手になったり、時折は遊び相手になったりしていた。
そんな日々が続いたとある日、僕は不意に月音に尋ねられた。
「朋胤さまは、なぜ月音に優しくしてくださるのですか?他の人たちはみな、明るいねぇさまばかりに優しくて、月音には優しくしてくれないのに」
悲しい目をしていた。
もともと黒曜石のような綺麗な真っ黒な瞳をしている月音だが、その瞳は浮かんだ涙で揺れていた。
この子は表に出さなくても、ずっと姉との違いに苦しんでいたんだと知った。
「それはね、月音が本当は優しくて、そして皆を大好きだって解っているからだよ」
無意識にそっと月音の頭を撫でる。
陽奈美とは違い、月のない夜のように真っ黒な髪。
手が触れるとすこしひんやりとした。
しかしその手触りは何故か上質な反物のように滑らかで、僕はついずっと頭を撫でてしまった。
「そんな事を言ってくださるのは朋胤さまだけです。みな月音は冷たい、強いというのです」
ついにこらえきれない涙があふれ出し、月音の頬を流れていった。
「そんな事はない、月音はとても優しい心を持っているよ。僕はそれを知っているから」
月音の泣き顔は、何故か僕の心を苦しくさせた。
どうにかして泣き止ませたいとその気持ちだけが心を埋め尽くした。
「大丈夫だ、月音。僕は絶対に君の味方だから」
優しく月音の頭を抱きかかえる。
その時の僕にはそうする事が当然の事のように思えたし、それ以外に月音の涙を止める手段が思いつかなかった。
風が吹いた。
草を、僕と月音の髪をそっと靡かせる。
僕は月音をずっと守り続けるんだろう、不意にしかし当然のように僕は思った。
少し離れた場所で、陽奈美が寂しそうに僕たちを見ている事に、気づかないままで僕はずっと月音の頭を抱きよせて、髪を撫で続けていた。
それがその子、
姉である陽奈美とは正反対とも言えるほど、違う性格。
陽奈美は、居るだけでその場を明るくさせる雰囲気と存在感がある。
だけど月音は大人しく控えめで、自らが率先して前に出る性格ではない。
好奇心が旺盛で、活発で同じ所にずっといる事が出来ないという陽奈美と違って、こちらが声をかけなければずっと一人で、日陰に腰を下ろして絵草紙などを見続けているような子だ。
見た目も、くりくりとした大きな目の姉と違い、切れ長でややつり上がった目は性格が
併せて冷たい印象も与えてしまっている。
頬から顎にかけての線も、どちらかというと陽奈美は可愛らしい少女という言葉が、ぴったりくるような、ふっくらとしたやや丸みを帯びた形なのに、月音は頬から顎にかけても鋭利な刃物のような鋭さを感じさせる。
総じて冷たくて、気が強くて、近寄りがたい雰囲気というのが、初対面の月音の印象だった。
更に驚く事は、全く違う容姿の二人なのに、この姉妹は双子だという事だ。
しかし何度も顔を合わせるうちに、彼女の性格がそのような容姿とは全く違うものだと気がついた。
月音はあまり自分を主張する性格ではないが、しかし思いやりと気遣いの出来る優しい性格の持ち主だった。
いつも元気に駆け回る姉の後ろをちょこちょことついて回り、姉が好奇心の赴くままにあちこちへと動き回る時は、木の陰などに腰を下ろして、姉の姿をぼんやり眺めているか、絵草紙を夢中で読むかしている。
陽奈美が遊びに夢中になり、いつまでたっても戻ってこない時などは、僕が月音の話し相手になったり、時折は遊び相手になったりしていた。
そんな日々が続いたとある日、僕は不意に月音に尋ねられた。
「朋胤さまは、なぜ月音に優しくしてくださるのですか?他の人たちはみな、明るいねぇさまばかりに優しくて、月音には優しくしてくれないのに」
悲しい目をしていた。
もともと黒曜石のような綺麗な真っ黒な瞳をしている月音だが、その瞳は浮かんだ涙で揺れていた。
この子は表に出さなくても、ずっと姉との違いに苦しんでいたんだと知った。
「それはね、月音が本当は優しくて、そして皆を大好きだって解っているからだよ」
無意識にそっと月音の頭を撫でる。
陽奈美とは違い、月のない夜のように真っ黒な髪。
手が触れるとすこしひんやりとした。
しかしその手触りは何故か上質な反物のように滑らかで、僕はついずっと頭を撫でてしまった。
「そんな事を言ってくださるのは朋胤さまだけです。みな月音は冷たい、強いというのです」
ついにこらえきれない涙があふれ出し、月音の頬を流れていった。
「そんな事はない、月音はとても優しい心を持っているよ。僕はそれを知っているから」
月音の泣き顔は、何故か僕の心を苦しくさせた。
どうにかして泣き止ませたいとその気持ちだけが心を埋め尽くした。
「大丈夫だ、月音。僕は絶対に君の味方だから」
優しく月音の頭を抱きかかえる。
その時の僕にはそうする事が当然の事のように思えたし、それ以外に月音の涙を止める手段が思いつかなかった。
風が吹いた。
草を、僕と月音の髪をそっと靡かせる。
僕は月音をずっと守り続けるんだろう、不意にしかし当然のように僕は思った。
少し離れた場所で、陽奈美が寂しそうに僕たちを見ている事に、気づかないままで僕はずっと月音の頭を抱きよせて、髪を撫で続けていた。