第20話

文字数 603文字

一緒に逃げた彼女とはくっついたり離れたり。
2度目の妊娠も、彼女が堕ろすと決めた。
3度目には僕にはもう、遠慮がちに「産んでくれたらきっと…」と言う気力しか残って居なかった。
女の居ない世界に行きたい。
その高まった感情をうすうす知りながら、どこかで仄かに期待して、受け入れ、従い、また繰り返す。
サイコキラー。
それが僕だ。
音楽だってうまく行かない。
自分の曲を、誰かに納得行くまで突き詰めて演奏してもらう為の押し付けなり厳しさなり。
それを持つ勇気がない。
あまりに臆病だった。
勝手に誰かに期待して、いつも何かのせいにして。
自分が居ない。
あれ?なんだか、昔誰かがそんな事言ってた。
誰だろ?いつだろ?何処だろう?
ともかく僕のそんなひ弱な精神が、殺人という最悪な罪を幾度犯しても治らない。
指折り数える。
償いきれない罪。
それを僕は、もう背負いきれない程背負って、その足はアスファルトに亀裂を入れて地べたにめり込んでいる。
いつしか30歳になっていた。
いよいよバンドも立ち行かず、僕は故郷へ追われるようにして帰った。
誰も残らず、金もなく。
その間に兄貴は行方不明、弟は交通事故で死んでいた。
母親の再婚相手も病気で死んでいた。
借金を残して。
僕は車に少しの荷物を積み込み、そんな頼れるはずもない母親と種違いの弟が暮らす「実家」にねぐらを頼り、ひとり真っ暗な夜道を走り出した。
あまりの心細さに今まで無関心だったインターネットを覗いていた。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み