セリフ詳細

(堰[せき]を切ったように)

私、家中ひっくり返して探したんです、主人の置いていった背広のポケットも全部裏返しました、そしたら、やっぱり、出てくるんですね、その手のお店の、何なんでしょう、怪しいハートマークの入ったカードなんかが、用心深いあの人だってうっかりってことはある、ううん、うっかりは私よね、ずっと気がつかなかった、風俗なんてね、普通の女は、主婦は、一生縁なんかないの、だから頭の中だけで、ぐるぐる、ぐるぐる、想像してたんです、どんなものなんだろうって、そしたら……そしたら……


普通の子じゃないですか。素直な、優しい、いい子じゃないですか。人が泣いてるのを見て、こっそり助けてくれるような子ですよ。どうすればいいんですか。
先生。私は、憎む相手が欲しかったんです。憎んで憎んで、恨んで恨んで、この爪でかきむしって、ののしって、死ねばいいと思える相手が欲しかったんです。それが、こんな……こんな……

作品タイトル:【戯曲】沈める町

エピソード名:第一幕第七場

作者名:未村 明(ミムラアキラ)  mimura_akira

78|恋愛・ラブコメ|完結|44話|27,519文字

戯曲, 脚本, 現代, 恋愛, 家族, 機能不全家族, 切ない, R15, LGBTQ, 悲恋

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「この町も、沈んでいるんです。誰も気づいていないだけなんだ。きっと、誰も空を見上げないからですよ」
新宿二丁目で荒稼ぎするレントボーイ(男娼)のタカを、心理カウンセラーのユウキが訪ねてくる。ユウキは失踪したクライアントのサラリーマン、ゲンの行方を探していて、かつてゲンに買われたことのあるタカに情報を求めたのだが、タカは挑発と嘲笑をくりかえすばかりで、なかなか心を開こうとしない。
一方、ゲンの妻のハツは、生活のために始めた清掃のアルバイトで、物静かで優しい青年リキと出会う。ハツにはリキが心の支えになっていくが、それを知ったユウキは驚き、リキをハツに会わせまいとする。
タカはリキの自称「同居人」だった。それどころか、一見正反対の性格のこの二人には、さらに深い秘密があったのだ。

心の中に住む、他人。
〈本当の自分〉が見えないまま、それでも人は、人を愛する――。
樋口一葉の名作『にごりえ』を21世紀の新宿二丁目に置き換え、北フランスに伝わる海に沈んだ幻の都市イスの伝説と交錯させた、サイコサスペンス・ファンタジーです。

*2006年度文化庁舞台芸術創作奨励賞佳作(優秀賞は該当作なし)
※「実村文」名義
『新鋭劇作集 19巻』(日本劇団協議会、2007年)に収録されましたが、その後大幅に改訂。ここに載せてあるのが決定版です。

舞台写真は2009年に上演したときのものです。
【配役】
リキ……高義治 Taka Yoshiharu
タカ……川上英四郎 Kawakami Eishiro
ハツ……壱岐照美 Iki Terumi
ゲン……宮崎稲穂 Miyazaki Inaho

上演記録の詳細はこちらにあります↓
https://www.unit-sala.asia/works2/sunken-city/