セリフ詳細

カメラアイと違って、王女さまの気持ちをダイレクトに書くことができます。赤字にした部分がそうです。
「とても心細くてさびしくて、くるりと後ろを向いて逃げ出したかった」
「頭がごちゃごちゃでどの顔も同じに見えて誰が何を言っているのかわからなかった」
「あの人のところへ行きたいと強く思った。あの人とならお話ができると思った」

その代わり、
王女さまの「肩がちぢこまっていた」という描写は、落ちてますね。
王女さまの一人称なら、「わたしは肩をちぢこめていた」より、「わたしは心細くて逃げ出したかった」のほうが自然です。

それと同時に、王女さまの髪が「ゆたかで縮れて」いる、という情報も落ちてます。
この状況で王女さま「わたしの髪はゆたかで縮れている」なんて考えませんよね。笑

それから、ラッサがヘム人で、王女さま自身がテュファール人だという情報も落ちてます。
それは王女さま自身にとってあたりまえで、いま考えることじゃないからです。
まあ例えば
「わたしはテュファールの王女セフリッド。ヘム人のラッサに連れられてここへ来た」
と書く手もありますけど、このシーンでそれ書くと、王女さますっかり落ちついちゃって(笑)、不安で混乱している感じは出せません。

作品タイトル:『ル=グウィンの小説教室』をつまみ食いしちゃうのだ

エピソード名:第7章「これが視点だ!」視点タイプ1&2(一人称視点)

作者名:未村 明(ミムラアキラ)  mimura_akira

149|創作論・評論|完結|41話|90,160文字

創作論, 創作のヒント, 小説の書き方, ハウツー, ル=グウィン, 文体, 人称, 視点, 翻訳

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ハウツー難易度:★☆☆~★★★(だんだん難しくなります)
ファンタジーの大家アーシュラ・K・ル=グウィンによる、小説の書きかた本。
"Steering the Craft"(あなたの技術/船の舵をとろうよ)
とても面白くて、役に立つアドバイスと練習問題がたくさんつまった本なので、ご紹介したいと思います。

『ル=グウィンの小説教室』という題は、今年の夏出版された日本語訳のタイトルからお借りしています。
『文体の舵をとれ ル=グウィンの小説教室』
(アーシュラ・K・ル=グウィン著、大久保ゆう訳、フィルムアート社、2021年)
でも、このエッセイ中の引用は、すべて未村が自分で訳しています。フィルムアート社の訳はいっさい使っていません。

アイコンは「ひかわさん」というイラストレーターの作品を使用しています。(イラストACよりダウンロード)

この作品はもともとコラボノベルでしたが、コラボレーターだった南ノ三奈乃さんが途中でリタイアされ、ご自身の投稿もすべてご自分で削除されました。
南ノさん、お忙しい中、ご協力ありがとうございました。