第7章「これが視点だ!」視点タイプ1&2(一人称視点)
文字数 3,397文字
お話のキャラクターの誰かになりきって、その人になったつもりで語ってみちゃうのです。
オトナの「ごっこ遊び」です。ヾ(o´∀`o)ノワァーィ♪
まずは、ヒロインになってみると……
知らない人たちでいっぱいの部屋に入ったらとても心細くてさびしくて、くるりと後ろを向いて逃げ出したかったけど、ラッサがすぐ後ろにいたからわたしは前へ進むしかなかった。みんながわたしに話しかけてきて、ラッサにわたしの名前をきいた。わたしは頭がごちゃごちゃでどの顔も同じに見えて誰が何を言っているのかわからなかったから、てきとうに答えてばかりいた。
一瞬だけ、人だかりの中で目が会った人がいて、それは女の人でわたしをまっすぐ見ていて、目に優しい光があったから、わたしはあの人のところへ行きたいと強く思った。あの人とならお話ができると思った。
ル=グウィンさんの原文だと、単語がやさしくてコンマがほとんどなくて、文章の構造も単純です。
だから、このお姫さまは、まだ少女のようです。
バージョン#0で「歩幅広く」と言っているから、さすがによちよち歩きじゃないんだけど、せいぜい十代の前半じゃないかな?
どういうことかというと……
例えば、まだ少女だと設定したら、小難しい硬い言葉は使わない、とか。
(もちろん、小難しい硬い言葉を駆使できる天才少女も世の中にはいますけどね!)
でも、それ以上にもっと気をつけなくちゃならないポイントがありますよね。
もう一度見てみてください。
知らない人たちでいっぱいの部屋に入ったらとても心細くてさびしくて、くるりと後ろを向いて逃げ出したかったけど、ラッサがすぐ後ろにいたからわたしは前へ進むしかなかった。みんながわたしに話しかけてきて、ラッサにわたしの名前をきいた。わたしは頭がごちゃごちゃでどの顔も同じに見えて誰が何を言っているのかわからなかったから、てきとうに答えてばかりいた。
一瞬だけ、人だかりの中で目が会った人がいて、それは女の人でわたしをまっすぐ見ていて、目に優しい光があったから、わたしはあの人のところへ行きたいと強く思った。あの人とならお話ができると思った。
「とても心細くてさびしくて、くるりと後ろを向いて逃げ出したかった」
「頭がごちゃごちゃでどの顔も同じに見えて誰が何を言っているのかわからなかった」
「あの人のところへ行きたいと強く思った。あの人とならお話ができると思った」
その代わり、
王女さまの「肩がちぢこまっていた」という描写は、落ちてますね。
王女さまの一人称なら、「わたしは肩をちぢこめていた」より、「わたしは心細くて逃げ出したかった」のほうが自然です。
それと同時に、王女さまの髪が「ゆたかで縮れて」いる、という情報も落ちてます。
この状況で王女さま「わたしの髪はゆたかで縮れている」なんて考えませんよね。笑
それから、ラッサがヘム人で、王女さま自身がテュファール人だという情報も落ちてます。
それは王女さま自身にとってあたりまえで、いま考えることじゃないからです。
まあ例えば
「わたしはテュファールの王女セフリッド。ヘム人のラッサに連れられてここへ来た」
と書く手もありますけど、このシーンでそれ書くと、王女さますっかり落ちついちゃって(笑)、不安で混乱している感じは出せません。
そのかわり、ヒロインの容姿など、彼女に関する情報が落ちちゃうというデメリットもあります。
その解決法として――
別の人を視点人物に選んでみる、という手があります。
彼女がまとっていたのはテュファールの服、どっしりした赤のローブで、私はあの衣装をひさしぶりに見た。彼女の髪の毛は雷雲のように広がって、ほっそりした黒い顔をとり巻いていた。彼女は自分の主[あるじ]、ラッサという名のヘム人の奴隷所有者に前へと突き出されて、小さくちぢこまり、必死に身構えていたけれど、自分の周りに他人には立ち入らせない空間を確保してもいた。捕らえられ、祖国を遠く離れていながら、彼女のおさない顔には誇りと優しさがあった――私が彼女の同朋たちに見て愛してきたあの美徳が。
あの子と話したい。私は、そう強く願った。
この女性は明らかに大人です。二十代か五十代か、そこまではわかりませんが。
この人の視点のおかげで、セフリッドちゃんがとても素敵な服を着ていることがわかりました。
髪の毛もたんに「ゆたかで縮れて」いるというだけじゃなく、「雷雲のようだ」って、見る側の賛嘆の気持ちが入っています。
王女さまの自意識ではただもう心細くて逃げ出したいとあったのですが、この女性は彼女の顔に「誇り」を見てとっているんですね。それも素敵です。
ラッサが奴隷主であるという情報も入りました。これはカメラアイでは書けなかったことです。この女性の持っている情報なんですね。(姫自身がそう言わないのは、ラッサを自分の「主人」と認めたくない誇りの現れかも。)
それから、この女性自身はテュファール人ではなく、けれどもテュファール人とかつて何かの接触があった人で、テュファール人に対して好意を持っているということもわかります。また赤字を見てください。
彼女がまとっていたのはテュファールの服、どっしりした赤のローブで、私はあの衣装をひさしぶりに見た。彼女の髪の毛は雷雲のように広がって、ほっそりした黒い顔をとり巻いていた。彼女は自分の主[あるじ]、ラッサという名のヘム人の奴隷所有者に前へと突き出されて、小さくちぢこまり、必死に身構えていたけれど、自分の周りに他人には立ち入らせない空間を確保してもいた。捕らえられ、祖国を遠く離れていながら、彼女のおさない顔には誇りと優しさがあった――私が彼女の同朋たちに見て愛してきたあの美徳が。
あの子と話したい。私は、そう強く願った。
お話がどんどんふくらみそうです。
ヒロイン登場のシーン、二択あるわけです。
ヒロイン自身の感情を読者にダイレクトに体験させるか、
それとも、ヒロインを見ている人の視線を通して、ヒロインがどんな人か知らせていくか。
7-0で考えたシーンを使います。
主人公(事件の渦中にいる人物)の視点から、このシーンを語りなおしてください。
同じシーンを使います。
主人公ではない人物(傍観者、目撃者)の視点から、このシーンを語りなおしてください。
その選んだ一人のキャラクターが見て、聞いて、感じて、考えて、知っていることしか書かない。
それを超えるものは書かない。
という制限内で書くことです。
この〈王女セフリッド〉では以心伝心で心が通じあっていますけど、
二人のキャラクターがおたがい誤解してすれ違っている話を書いて、にやにやするのも作者の特権!
思いきり素敵な台詞を考えてみてくださいね! ワクワク