素焼きのネコ

作者 水沢せり

[ファンタジー]

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1件のファンレター

2000字文学賞参加作品です。

ファンレター

想像で空白を組み立てる。

 冒頭の“見舞いの品”で、頭の中がすっかり「千疋屋」です。(コラ)
 いえ、いつのことだったか興味本位で店を覗いたことがあるのですが、その当時りんごが1個2千円だったんですよ、ここ。1個2千円ですよ、箱じゃなく、それも税抜き価格。恐ろしい。
 こんな価格の果物は自分じゃ買えない、よほどの場合、それこそ入院したとかで誰かが持ってきてくれない限り口にできないよね、なーんて会話をしたことが過去にあり、それ以来どうにも自分の中では“見舞いの品”=千疋屋なのです。

 と、それはともあれ。生き直しの猫。
 読んでいる中で実際に不思議が起こるわけではないけれど、想像で空白の部分を組み立てる系のファンタジー。いわゆる転生モノでもあるのですね。 
「今の記憶を持ったまま、今の年齢と同じ、別の記憶を持った誰かとして」生き直せるのは魅力がありすぎます。
 勇人の、「生きている意味がわかんなくなっちゃった」というのは、真面目に生きていると必ず(と断言するのは言い過ぎかもしれませんが)直面する「存在意義」の壁だと思うので、そのような悩める思春期にこれほど便利な道具があったら、自分も心がぐらぐらと揺れ動いたのではないかと考えてしまうのです。

 そして想像で組み立てるべき空白部分。
 転生前のお母さん、病気だったのか。ということは、心中でもしたのかな。そしてお母さんは転生後、すでに……。
 そんなことを思いながら読んでいると、ラストの「借り物の人生」という言葉がよりいっそう虚しさを駆り立てるように感じます。
「別の記憶を持った誰か」というのはちょっと怖い部分ですよね。
 転生した相手は転生前には別の人格だったわけで、転生によってその人はどこかに消えてしまったのか、それとも消えずに他人の記憶と寿命だけが植え付けられたのか、その場合転生前の人格はやはり……死んだのか。考えるほどに「私は誰か」という命題の迷路に足を踏み込んだ気持ちになります。

 そして最後に1つ、読解が追いつかない箇所がありました。
「勇人がもし生き直せていたら──。おれから勇人の記憶は全部なくなるのに」
 転生すると、記憶が消える仕様なんでしょうか。死んだと認識されるのではなく。
 そしてどうしてそれを、猫の名前も知らなかった主人公は知っていたのでしょう。
 これは2千字ゆえの限界かなとも思うのですが、もう少し説明があるとよかったかもしれません。

 ちなみに、見舞いの品は千疋屋のメロンでお願いします!(ヲイ)

返信(3)

千疋屋。一度でいいから桐の箱のをもらってみたいです。(あげないのかよ!)

ご指摘の部分に関してですが、完全にわたしの力不足です。ごめんなさい。しくしく。
2000字の難しさですよね。
実力のある人なら、もっと大事なところだけを抜き出してしっかり伝えられるのでしょうが、今のわたしにはこれが精一杯でございます。
大変申し訳ございません―――――っ!(ジャンピング土下座)

補足になるかはわかりませんが。
・蛹のごとく、死んだら存在そのものが消えて再構築される(ので、当人に関する記憶そのものもなくなる)
・怪談の「ひとり増えてない?」的に、存在そのものがどこかに割りこまれる
主人公は小学生のころに生き直しをしているので、ある日突然「自分が自分でなくなっている」ことに気づきます。
自分になにが起きたのかを確認するために、夏休みを利用して、一度生まれた町に帰っています。
そこで、自分に関する記憶が周囲の人間からなくなっていることを確認済みです。
(存在まで消えていることは、子どもなので調べきれていない)

母は、夫からのDVに(息子ともども)命の危険を感じて生き直しを選んだとか~。
人生は一度きりだから、生き直しても「時間の巻き戻し」はできないのよ~(by生き直しの猫)とか~。
だから、寿命が残りわずかな人が生き直しても、すぐに死ぬわよ~(by生き直しの猫)とか~。
転生ものを描きつつ、転生を否定しているような内容を描くひねくれものです。

物語として作りすぎると、どうしても字数が足りなくなってしまいますよね。
ワンシーン、ワンシーンでいいんだと思いつつ、ワンシーンになっていないことが多々あります。
頭の中の世界を、そのままババーンと再生できる機械がほしいと常々思います。

まだまだ足りぬ。とため息をついておりますが、足りない部分を指摘していただけるのはありがたいです。
丁寧に読み解いてくださって、本当にありがとうございます。&いつもありがとうございます。
可能性は手に入るけど、根幹が消え去る生き直し。
幸せなのか不幸なのか、それは神のみそ汁です。
補足の部分を読ませていただいて、いろいろと納得がありました。
同時に自分の解釈、一部間違っていたな、と(笑)

コンテストも終わりましたし、補足を追加した短編にでも作り直しを……ぜひ!
解釈が間違っていたというよりは、書き切れていなかったのひと言に尽きると思います。
この作品は設定を考えるのも楽しくて、個人的にも気に入ってるので、いつか書けたらなと思っています。
が、新人賞に出せるだけ出す! と今は賞に比重が傾いているので、完成させるにしても時間はかかると思います。