家裁調査官が向き合う「心の闇」:書評 五十嵐律人『不可逆少年』

作者 mika

[創作論・評論]

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五十嵐律人『不可逆少年』(講談社、2021年)の書評です。極力ネタバレをせずに紹介しています。未読の方も安心してお読みください。
2021年3月31日発表の2000字書評コンテストで優秀作品に選んでいただけました。

ファンレター

僅か2000字の大作!

見事な書評を読ませていただきました!ネタバレは一切なしで、対象の作品の本質――それは同時に非常に重要な社会問題でもある――を鋭く抉り出し、この作品をぜひとも読まなければという気分にさせられます。2000字の大作ですね!すごいです~^^

返信(1)

南ノさん、お読みいただき、メッセージをありがとうございます! 2000字の大作、と言っていただけて、とてもうれしいです^^
本作はミステリーなので、できるかぎりネタバレを避けて紹介しました。本作の参考文献に『暴力の解剖学:神経犯罪学への招待』(エイドリアン・レイン)が挙げられていますよ。
「やり直せるから少年」という言葉が本作のキーワードなのですが、読書メーター(読書系SNS)でみなさんの感想を読むと、「やり直せないのでは」「現実はそんなに甘くない」「改心しない犯罪者はどうしたらいいのか」などの更生に否定的な意見が多く見られました。
刑事司法制度上、実刑になった人は刑の刑期満了後五年以上犯罪がない場合は 「再犯の恐れなし」 とされ、犯罪によって受けた資格制限もほとんど解除されます。さらに十年を経過すれば 「前科抹消」 手続きがされ、犯罪人名簿からも抹消され資格制限はすべて解除されます。本文中でもふれた神戸事件が起こってから二十数年経ち、加害少年が社会復帰してから十数年経つため、司法制度上はまちがいなく更生の段階に達しています。
しかし、加害少年の手記『絶歌』出版をめぐって世間から厳しく批判され、更生プログラムは失敗したと叫ばれました。本当に難しい問題だと思います。少年の更生プログラム全体は明らかになっていませんが、『少年A 矯正2500日全記録』(草薙厚子)や『少年裁判官ノオト』(井垣康弘)では、支援チームが悩み苦しみながら、文字通り命がけで少年と向き合ってきたことが分かります。