聖書と文学 ~名作で読む聖書の世界

作者 mika

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名作として親しまれている文学作品の多くに、聖書の言葉が引用されています。
文豪たちが、聖書のどの場面をどのように解釈し、どのように表現しているのかを読むことで、作家の信仰や欧米文化の理解につながるはずです。
このささやかな試みが、名作の魅力の再発見となり、聖書の理解の一助となれば、筆者として望外の幸せです。

ファンレター

聖書と文学

「聖書」と西洋文学が切っても切れぬ関係にあることは知っていても、具体的にどういう部分がどう影響を受けているのかはわからない。私も含め、多くの日本人がそうだと思います^^
mikaさんがレターの中で、マーベルの映画の中にも、聖書に関する独自解釈が語られる部分があると書いて下さいましたが、娯楽映画にしても然り、況や文学作品においてをや!…という感じですね。
第一回は『クリスマス・キャロル』でしたが、台詞に聖書の言葉が引用されているだけでなく、主人公の名前まで聖書由来だったとは……。しかも、そこにディケンズのキリスト教に対する深い思いが込められていたんですね。正に目から鱗でした。
次回はどんな文学作品を取り上げてもらえるのか、すごく楽しみです。
早速、「お気に入り」登録させていただきました~^^

返信(1)

南ノさん、さっそくお読みいただき、お気に入り登録をありがとうございます!
ご高齢で会を引退されるまで、ずっと読書会に参加してくださったドイツ文学の教授は、「聖書を読まなければ、欧米文学は分からない」と口ぐせのように言っておられました。とは言え、教授自身はキリスト教も含めて宗教が大嫌いで、若者にそうすすめる一方で、ご自分では読もうとしなかったですね(学生時代に『資本論』をドイツ語で愛読し、火炎瓶をつくっていた世代なので…)。
南ノさんがおっしゃる通り、欧米文学と聖書は「切っても切れぬ関係」と分かっていても、日本の読者にとっては「どういう部分がどう影響を受けているのか」を読み解くのは難しいと思います。だって文庫の巻末解説でも、作家の生い立ちや学歴・職歴・婚姻歴については詳しくふれるのに、作家がどんな信仰を持っていたか、どの教派の教会に通っていたか、といった情報は書いていないことがほとんどですよね。

今回の『クリスマス・キャロル』の文庫解説でも、ディケンズが英国国教会の信徒の家庭で生まれ、生涯国教会の信徒だったけれど、アメリカ旅行をきっかけにユニテリアン派に共感し、一時期はユニテリアン派の教会に通っていた、という作家の信仰遍歴は書かれていないです。(アメリカで19世紀前半に生まれたユニテリアン派は、神の三位一体を否定して、イエスを一人の道徳的人間と見る信仰理解が特徴です。アメリカ文学のソローやエマソンがユニテリアンでした)
文庫巻末の年譜にも、死後に出版された『主イエスの生涯』は記載されていません。ディケンズが子供のために『主イエスの生涯』を執筆していたことを知らないで、彼の小説にたびたび登場する教会や牧師、信徒たちに対する風刺の場面を読めば、日本の多くの読者はディケンズはキリスト教嫌いの作家なのだと誤解してしまうでしょう。
彼が批判の目を向けていたのは、福音主義派の熱狂的な説教者たちに対してでした。ディケンズは福音主義の熱狂を嫌悪していましたが、それは19世紀前半のアメリカで第二次信仰復興運動(第二次大覚醒)と呼ばれるほど大流行していたからで、イギリスでも影響が大きかった(ディケンズの母親も福音主義にのめりこんでいた)と言われています。
作家がどのような宗教信条だったか、どのように聖書の教えを解釈していたかを知ることは、読者がその作品を理解する手助けとなると思います。

次回はどの作品をご紹介するか、まだ決めていませんが、『クリスマス・キャロル』のように皆さんがよく知っている作品を取り上げたいですね^^ 引き続きよろしくお願いいたします。