家裁調査官が向き合う「心の闇」:書評 五十嵐律人『不可逆少年』

作者 mika

[創作論・評論]

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4件のファンレター

五十嵐律人『不可逆少年』(講談社、2021年)の書評です。極力ネタバレをせずに紹介しています。未読の方も安心してお読みください。
2021年3月31日発表の2000字書評コンテストで優秀作品に選んでいただけました。

ファンレター

なるほど

mikaさん、こんにちは。
以前の作品ですが読ませていただきました。

やはり書評の考察には深みが必要で、その深みは文章に滲み出るのだなあ、と思いました。

失礼ながら、ファンレターとその返信まで読ませていただきましたが、その背景をも知ることができ、ますます感銘を受けました。
実際大学等で勉強しても深みが出ない人というのは、自分も含め大勢いるもので、
やはり講義も本もきっかけに過ぎず、自分で本気で考えることが必要なのだと再認識させていただきました。

有り難うございました。

返信(1)

村山さん、お読みいただきありがとうございます。
今月の書評コンテストにも五十嵐律人さんの新作がお題になっていましたね! 課題本の『原因において自由な物語』は、タイトルだけでもう、弁護士作家らしさがにじみ出ていますね^^ 犯罪行為の責任問題における「原因において自由な行為」という有名な刑法理論があって、これをオマージュした物語に仕上げているのかな、と想像します。村山さんは書評コンで加潮谷験『時空犯』を選んだのですね。書評をお読みして、「時間の「巻き戻し」が千回近く既に起きている」ミステリーとは、かなり手強そうなお話ですね! 作中で「独自の架空理論」が語られるとは、難しそうです^^

「講義も本もきっかけに過ぎず、自分で本気で考えることが必要」というのは、おっしゃる通りだと思います。わたしたちが現実の諸問題に直面した時、倫理学はその問題と論理的に向き合うための道筋を示したり、考える道具を与えてくれます。ある考えに従えば倫理的に善い、社会道徳に適っているとされる行為が、別の考えに従えば倫理的に悪で、不法であると判断される。そんな行為が現実にはとても多いですよね。人種問題は分かりやすい事例です。かつて植民地でとられた先住民絶滅政策は、当時は「合法」だったのですから。
こうしたさまざまな現実の問題に「本気で」向き合うには、当事者意識が必要なのだろうと思います。そうでなければ本を読んでもすぐに忘れてしまうし、痛ましいニュースだって聞き流してしまいがちですね。とは言え、自分の身に起こったことでなければ、自分のこととして考えるのは難しいものです。だから、物語を読むことは、他者に共感する力を養う上で、役立つのではないかと思います。