#2-5 菊地 真帆

文字数 3,374文字

菊地 真帆(きくち まほ)
3年B組。18歳。O型。
身長155センチ。
家族構成:父・母・兄

 私はまだお付き合いをしたことがない。
親友の瑛莉華(えりか)には智也(ともや)、同じく親友の(しのぶ)には草太(そうた)という彼氏がいる。瑛莉華と忍と私の3人組で私だけ彼氏がいない。
私は背は低いが中肉中背でそれなりに身なりも整えてるし、まったくモテないわけでもない。あまり仲良くない子から告白されてもどうしたらいいかわからずに断るしかなかった。
と、いうか、私は多分、まだ恋をした事がない。
瑛莉華や忍の恋愛話を聞いていても、ドラマや小説の中の話のようだった。

 好きな男の子は1人いた。6人アイドルグループの中の1人だ。
中学1年の時にテレビでその子を見てときめいた。かわいい顔で笑顔でダンスをしながら歌っていてキラキラしていた。
それから私の推し活が始まる。両親にお願いして会費を払ってもらってファンクラブに入り、コンサートに行って、出ている雑誌は片っ端から買ったし、テレビ番組も見逃さなかった。
しかし年を追うごとに何故だかその熱は冷めていき、中学3年の時には両親に会費をお願いする程でもないと思ってファンクラブも辞めて推し活が終わった。

 ちょうどその頃、同級生の男の子に告白された。
何度か話した程度でとりたてて仲良いわけではなかったが、推しだったアイドルにちょっと似ていたので、キッパリ断ることはせずに友達から始めましょうと返事をした。私にしては大きな1歩だ。
 正式に付き合っているというわけではないが、メッセージを送り合ったり、たまに一緒に下校して途中の公園で話をしたりした。彼も私のように内気な性格だったので、交際を急かすこともなく私に合わせてくれていた。そんな関係が3ヶ月くらい続いて元々かわいらしい顔つきの彼の笑顔を見ると、かわいいなと温かい感情を抱くようになっていった。
しかし学校で1番仲の良い男の子ではあったが、お付き合いをするほど好きかというとまだそこまでではなかった。
 中学卒業間近になり、彼は私を遊園地に誘った。
2人きりでどこかへ行った事はなかったので、デートとはどういうものなのか経験してみたくて一緒に出掛けることにした。
彼とは打ち解けていたので気がラクだったし、遊園地も楽しかった。
 夕方、園内を歩いている時に彼は私の右手に触れた。私達は手をつないで歩いた。
でも私はそれに違和感を感じて手を離したかった。だけど彼を傷つけてしまいそうでつないだままでいた。早くつないだ手を離したくて、疲れたから早く帰りたいとお願いして家路に着いた。
 何故、彼の手がイヤだったのかわからない。彼は清潔感があってかわいく笑うし、気も合うし、遊園地も楽しかった。なのに手をつながれた瞬間から不快感が沸いてきた。彼が悪いわけではない、彼を本気で好きではないからきっと本能が拒否したのだ。よくわからない自分の感情を私はそう分析した。
それ以来彼とは話をしなくなった。

 結局私は高校生になっても彼氏はできていない。男の子と話はするが好きな子はできない。
「そういうのって突然だし。計画して人を好きになるわけじゃないじゃん」
「経験すればイイってもんじゃないでしょ、人それぞれだよ」
などと言って、瑛莉華は経験の少ない私に言ってくれる。
瑛莉華にとっての智也のような彼氏が私にもいつかできるだろうと、彼女の励ましによって前向きに思えるようになった。
 瑛莉華は私の憧れだった。
顔もかわいくてスタイルもいい、考え方も大人だし、いつも明るくて優しくて、キラキラしていた。それに智也に愛されていて幸せそうだった。
 もう1人の友達、忍の事も好きだった。
彼女はノリがよくて男の子とも仲良くするのが上手だったし、明けっ広げな性格で年上の彼氏との経験など、私の知らない事をおもしろおかしく話すので楽しかった。
私は恋人や好きな人はいないけど、2人の親友と一緒にいるのが楽しくて大好きだった。
 私達はよく瑛莉華の家に泊まって一晩中おしゃべりをした。
ある晩、忍が悪乗りして瑛莉華のTシャツをまくり上げて言った。
「このブラ、ちょうかわいいんだけどー」
ピンクのチェックでフリルのたくさんついたかわいいブラジャーをした瑛莉華は
「ちょっとぉやめてよぉ。ハズイじゃん。」
と、笑いながら言い返した。水着姿だって見たことあるし、着替える姿も何度も見たことはあるし、下着を見られたところでたいして恥ずかしくはない。
「しかも、おっぱい大きいし。触っていい?」
「だからやめてってばぁ」
2人は女の子ならではの悪ふざけでじゃれ合っていた。私はそれを微笑ましく見ていた。
「瑛莉華のおっぱい、柔らかぁい」
忍が瑛莉華の胸に触れて、私の方を見て
「真帆も触ってみな、ちょう柔らかいから」
と、近くに来るように誘った。
「いいよ、私は。智也に怒られちゃうよ」
私は恥ずかしいのでそう返事して、瑛莉華の胸には触れなかった。
 でも本当は瑛莉華の胸に触れてみたかった。ギュッと寄せられてふっくらと盛り上がった彼女の胸に初めての感情が沸き上がった。
それは何なのだろう、何故だろう。急に訪れたよくわからない感情に私は戸惑っておとなしくしていると、瑛莉華が近寄ってきて私に軽くキスをした。
「真帆のファーストキス、瑛莉華が奪っちゃった」
と、大きな瞳で私を見つめて笑顔で言った。
「瑛莉華サイテー!浮気者ぉ、智也にチクるよ」
「女の子とのチューはセーフだし」
瑛莉華は忍とまたケラケラと笑いながらふざけていた。
私はドキドキが止まらない。
瑛莉華の唇の感触やピンクのブラジャーのキレイな胸、かわいい笑顔などが何度も蘇って一睡もできなかった。
 瑛莉華に触れたい、またキスしたい。そう思っている自分に気がついて、私は瑛莉華が好きなのだと確信した。友達としてじゃなく、恋愛対象としてだ。

 ある日、忍は草太とデートで、私1人で瑛莉華の家に泊まりに行った。
着替えようとして瑛莉華が制服を脱ぎながら聞いた。
「あ、真帆もだよね、Tシャツとハーフパンツでいい?」
「うん、ありがとう」
瑛莉華は下着姿のままクローゼットの中の衣装ケースから私用の部屋着を引っ張り出し、ラグの上に座っている私にそれを差し出した。
私は瑛莉華のキレイな身体に見とれていた。
「ん?どした?」
彼女は私の視線に気づいたのか、そう聞いたので
「あ、瑛莉華スタイルいいから、いいなって思って。見ちゃった。ごめん」
と、ごまかした。瑛莉華は下着姿のまま私の前に座った。
「瑛莉華、スタイルいい?」
「うん、ちょういいよ、胸大きいし。細いし」
「おっぱい大きいのはビミョーだよ。男に見られるし、似合わない服あるし」
「そうなんだ、でもうらやましいよ。」
「瑛莉華は、真帆くらいがいいな。バランスよくてちょうどいいじゃん」
と、瑛莉華は左手でアタシの右胸を優しく覆った。
私の心臓は高鳴って思わず
「瑛莉華のも、触ってもいい?」
と、聞いてしまったが、瑛莉華に変な子だと思われてしまいそうで言ってすぐに後悔してうつむいた。
しかし瑛莉華は笑顔で「うん、いいよ」と、あっさり言った。
 私はずっと触りたかった瑛莉華に触れた。吸いつくようにしっとりした肌がきれいで夢中になって触った。いつの間にか瑛莉華はブラジャーを外して、私は無我夢中だった。すると瑛莉華が切ない声を漏らして、我に返った私は「ごめん!」と言って手を離した。
「ぜんぜん、平気だよ」
と、言いながら瑛莉華はさらりと大きめの白いTシャツ頭からかぶった。恥ずかしくて瑛莉華の顔が見られなかった。
「ごめん、私、瑛莉華の事スキなの。女の子なのにヘンだよね、キモイよね。ごめんね」
嫌われたくなかった私は素直に気持ちを打ち明けて謝った。
「誰を好きになるのも、その人の自由じゃん。キモくなんかないよ」
と、言って瑛莉華は私を抱きしめた。彼女のやさしい言葉に涙があふれた。
「瑛莉華も真帆スキだよ。真帆のスキとは違うかもだけど、スキだよ」
涙が止まらなくなった私を瑛莉華は抱きしめ続けてくれた。
「瑛莉華の事スキになってくれてありがとう」
彼女はそう言って涙でボロボロの顔の私の唇に自分の唇を重ねた。私は嬉しくて天にも昇る気持ちだった。
 多分私の初恋は瑛莉華だ。この件があってからも瑛莉華は私と変わらずに友達でいてくれるし、この恋は叶わないけど、彼女を好きになってよかったと思った。
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