#4-6 松井 瑛莉華

文字数 4,357文字

松井 瑛莉華(まつい えりか)
3年C組。18歳。AB型。
身長162センチ。
家族構成:母・ネコ

 アタシが自分を“かわいい”と認識したのは中学1年の時だった。
とある日、クラスの女子全員にムシされ始めた。女の子によくあるイジメだ。女の子のその面倒に巻き込まれたくないと男の子達は見て見ぬフリをしている。アタシはクラスで孤立した。
母にワケを説明して学校に行きたくないと言うと
「それは瑛莉華(えりか)がかわいいから女の子達が嫉妬してるだけだよ。むしろ堂々と学校へ行きなさい」
と、言われて休ませてもらえなかった。
 渋々学校に行くと、机の中に小さく折りたたんである紙を見つけた。
開いてみると『助けてあげられなくてごめんね。放課後なら話せるよ』と、クラスの男の子からの手紙だった。
母の言う事は案外当たっているのかもしれないと思って、アタシは孤独だったが変わりなく学校に通い続けた。
 ある日、隣のクラスの男の子に告白された。その子は学年でもトップクラスにモテる。かっこよくてスポーツ万能で性格も明るく友達も多い、人気者だった。
アタシは『勝った』と思った。
アタシをムシしているクラスの子達の中でリーダー的存在の女の子が、この人気者の彼に恋しているのだ。まだ仲良くしていた頃に打ち明けられた。
この彼とはさほど仲良くなかったので、申し込まれた交際の返事を保留すると
「じゃぁ、まずは仲良くなろう!友達になろう!」
と、明るく前向きな彼は言って、次の日から休み時間にアタシのクラスに訪ねてくるようになった。
 クラスでムシされているアタシと人気者の彼が親し気に話をしていると、女の子達は注目した。男の子達は勇気を出し始めてアタシに話しかけるようになった。
そしてアタシはムシされなくなった。
“かわいい”は正義だ。
アタシはかわいく産まれたことを最大限に活用しようと決めた。

 高校2年になって付き合った先輩は失敗だった。交際を始めてわずかしか経っていないのに身体を求めてきた。“かわいいを活用スル”とは、そういうことではない。
苛立ったアタシは先輩を振り払って家に帰り、電話をした。
『どしたの?俺のかわいい巨乳ちゃん』
「ちょっとぉその呼び方やめて」
『ごめん、ごめん、どうしたの?かわいい瑛莉華』
電話の相手は徳永 廣臣(とくなが ひろおみ)。28歳。アタシの初体験の相手。現在の関係はなんというのかわからない。
「付き合い始めた先輩さぁ、完全にヤリモクでぇ、ムカついたの」
『男子高校生なんてそんなもんよ?』
「にしてもさぁ、あからさますぎて、まじウザいの」
『しょうがねぇよ。ヨシヨシしてあげようか?』
「うん。して。」
『じゃぁ、メシ行きたいからちゃんとした格好して来いよ』
アタシと廣臣は銀座で待ち合わせして、逢うなり「なんだよその服」と、彼は言った。廣臣はそれなりの店に食事に連れて行ってくれるので大人に見えるちゃんとしたワンピースを着て行ったというのに。
「えー、これ廣臣が買ってくれたヤツだよ?」
「そうだっけ?おまえ、せっかくイイ身体してんだから、もうちょっとセクシーなの着ろよ」
そう言って食事の前にデパートに行き、露出度があまり高すぎないちょっとセクシーなワンピースを3着買ってくれた。そして高級な寿司屋でお腹を満たし、高級なホテルに入って、“ヨシヨシ”してもらった。

 廣臣と出逢ったのは中学3年の時、街を歩いていたら彼にスカウトされた。彼の母親は有名な大女優でそのコネで大手芸能事務所に勤めていて、アタシをアイドルにしようとした。
でも母に高校卒業してからしなさいと反対されたし、不特定多数の誰かの

になるのも気は進まなかったので、その話は断った。
だけど廣臣はハンサムでスタイルもよく金持ちで、アタシの事を気に入っていたので連絡は取り続けていた。
 そして高校の入学式の前の春休みに『高校での初日は重要だ』と言って、アタシを美容院兼スパのようなサロンに連れて行き、髪も肌もネイルも、頭から足先までキレイにしてくれた。それとブランド物の財布など必要なものをすべて買ってくれた。
まるでお姫様にでもなったような気分だった。
でも何故彼がそこまでしてくれるのかわからなかったアタシは聞いた。
「アタシと付き合いたいんですか?」
「付き合うってどういうこと?」
「ん~、デートしたりとか?1番スキみたいな?」
まだ未熟なアタシがそう答えると
「オレに処女くれたら、キミの思ってるその“付き合う”以上のことしてあげるよ。キミがもういらないと言うまで、ずっとね。一生お姫様でいさせてあげるよ」
廣臣は不思議なことを言ったが、アタシはそれに興味が沸いて彼と一夜を共にした。それに彼はアタシがヴァージンを捧げるには十分な男だと思った。
そして宣言通り“付き合う以上のこと”をずっとしてくれている。

「瑛莉華、髪バサバサじゃね?」
彼は逢うたびにアタシのことをチェックする。
「うん、コテ使いすぎなんだよね」
美容院でトリートメントしてもらってケアしろと言って財布から3万円を出してテーブルに置いた。セックスをした後にお金を渡されて
「援交みたい」
と、アタシがクスクスと笑うと
「スキな子をかわいくするのは援交じゃねぇだろ。しかも今さんざんイったくせに、俺が金もらいてぇよ」
彼が言うように、廣臣はアタシに何でも買ってくれるし、現金もくれるけど、援交ではない。
 彼はアタシの事は『趣味』と言う。
趣味に没頭すると楽しいし、ストレス解消にもなるし、お金がかかるかもしれないけど、長く続ければ知識も増えて、スキルも上がり楽しさも増す。趣味を持っていると人生が華やかになる。
「俺、元々尽くすタイプなんだよねぇ。スキな子が喜ぶ顔がみたいの。欲しいもの買ってあげたいし、おいしいもの食わせたいし、セックスでも喜ばせたいしね」
「へぇ~。でも、瑛莉華が年取ったらまた他の女子高生探すでしょ」
「それはないね、俺ガキ好きじゃねぇよ、つまんねぇもん」
「瑛莉華、10代だけど?」
「おまえは別だよ、そのへんの10代にはないポテンシャルがあるから。むしろ俺は30歳くらいでエロくてイイ女になった瑛莉華とヤリたいよ」
「なにそれ」
「それに向けて、今育ててるんだよ。この育ててる感が楽しんだよ。賢くてエロイ大学生、デキるセクシーな会社員、将来楽しみだなぁ」
彼からするとアタシはまだ『外見だけで生意気なセックス覚えたてのガキ』だそうで、これから彼好みに成長するのを長い時間をかけて楽しんでいるというのだ。
そういう趣味だそうだ。
「金持ちの性癖?」とアタシが言うと「そうかも」と笑っていた。
 アタシは廣臣のことがスキだ。恋しくて恋しくて仕方ない、なんてことはないが、アタシの人生にも廣臣は必要だった。
イイ男だし、お姫様扱いしてくれるし、アタシをかわいく保ってくれるし、何でも話せる唯一本音を言えるし、一緒にいて楽しいし、アタシを“育ている”廣臣は、アタシにいろんなことを教えてくれるから。

『自分がかわいいのは自覚しろ、でも傲慢になるな』
『自分を磨け。外見も内面も』
『男との経験をつめ』
『知識や経験はいざという時まで隠しておけ』
『若いうちは整形に手を出すな』
 廣臣の母親は有名な大女優、父親は経済界の大物で、生まれながらのスーパーセレブだ。それを早々に自覚して“大女優のバカ息子”にならないように努めたという。両親からせっかくもらったイイ外見とイイ境遇を棒に振りたくはなかったからだ。
だからアタシにも、せっかくかわいく産まれたことを無駄にするなという。外見も中身も磨きをかけて、かわいいだけの女になるなということだ。外見だけで通用するのは30代半ばくらいまでだし、かわいいからと言って若いうちに無茶をすれば将来を台無しにしかねない。
 廣臣自身も、顔がいいセレブの息子というレッテルを見返してやろうとイイ大学に行って、大学生時代に起業までしていた。卒業後はその会社は売り払って母の顔を立てる為に芸能事務所で社会勉強し、賢い彼は父親がいくつも経営している会社の何社かで役員に名を連ねている。
 少年誌のエロ漫画を読めと言われた時は何事かと思ったが、そこには男の子の理想とする女の子が満載で、アタシはそれらを読み漁り“かわいい”を研究した。
アタシが“かわいいを活用スル”方法を間違わず、イイ女になる為のアドバイスを常々くれている。
 アタシは彼の言いつけを守ったからか楽しい高校生活が送れている。度々小さな悩みはあるが、たいていはアタシの思うようになるし、自分の評判を落とすようなこともなく、理想的な女子高生生活を送っている。廣臣のおかげだ。“かわいいを活用スル”というアタシの考えを廣臣がサポートしてくれている。

「ねぇ、瑛莉華と廣臣の関係ってなんなの?」
と、アタシが聞くと彼は呆れた声で返した。
「瑛莉華さぁ、なんだよそのつまんねぇ昼ドラみたいなセリフ。俺達の関係は言葉にはできないだろ。強いて言うなら、『愛してる』より上だよ」
「意味わかんない」
「関係をハッキリさせたいなら結婚でもする?瑛莉華がしたいならいつでもするよ?」
「結婚はしなくていいや」
廣臣はアタシにとって

・父親・兄・親友・恋人・セフレ・メンター、全部ひっくるめたような存在だった。
 彼には他にも女がいる。ちゃんと交際しているわけではなく、遊びの相手が何人かいるようだ。
でも『他の女とヤってても、瑛莉華に呼び出されたすぐ行くよ』と、最低なことを言っている。なのでアタシはその遊び相手に嫉妬したりしない。
アタシと廣臣は本当に不思議な関係なのだ。

 誰と付き合っていても廣臣との不思議な関係は続いている。
「あのイケメンの彼氏とはうまくいってる?」
廣臣はアタシの胸を(もてあそ)びながら、智也(ともや)との交際について聞いた。
「うん、ラブラブだよ。でもさぁエッチがさぁ」
「下手なの?」
「下手ではないの。でもイカせてくれないの」
アタシの胸を味わいながら彼は笑った。
「おまえわかってねぇなぁ、こんなエロイ身体見ただけで出そうなんだよ、18歳なんて。間違っても『イカせて』なんて言うなよ?」
「なんで?」
「引くか、自信失うか、その言葉で彼氏の方がイっちゃうか、だな」
笑いながら手を止めない彼にアタシは身もだえながら話を聞いた。
「こんなかわいい顔でアンアン言われても、彼氏は耐えてがんばってるんだから、その辺は勘弁してやれよ」
「でもぉ……」
「そのうち良くなるって。しかしもったいないねぇ、彼氏。イク時の瑛莉華は最高にエロくてかわいいのに」
 そしてアタシのその最高にかわいい瞬間を彼は何度も見て楽しんだ。
彼はアタシの事はよくわかっている。脳内から身体まで。
だから廣臣はアタシの人生に必要なのだ。
アタシが廣臣に育てられたように、アタシも智也を育てようと、廣臣の刺激に悶えながら思った。
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