#4-5 阿部 草太

文字数 1,968文字

阿部 草太(あべ そうた)
3年C組。18歳。B型。
身長178センチ。
家族構成:父・母・弟・ネコ2匹

 瑛莉華(えりか)智也(ともや)とうまくいってたし、俺は(しのぶ)と付き合い始めて彼女の事は諦めようと決めた。
忍をスキじゃないわけじゃない。瑛莉華ほどに夢中になってはいないが、忍には忍の良さがあって、付き合いが深まるほどに愛おしく思えた。彼女も俺に恋焦がれて付き合いだしたわけではないが、お互いが失恋を癒して思い合えるようになって、近い将来いいカップルになりたいと思っていた。

 夏休み、智也たちと海辺でダブルデート旅行をした。
海に近い寂れた安い民宿の1室に素泊まりで1泊、この日の為にみんなバイトに励んできた。その民宿に荷物をおいて午前中から海岸で遊んだ。
真夏の照り付ける太陽の下ではしゃぐ三角の形をしたビキニをつけた瑛莉華がまぶしかった。無意識のうちに彼女を目で追ってしまう。彼女のはじけそうな笑顔と身体が俺の目線を奪う。
 俺はまだ瑛莉華のことを忘れてないのだと気づいてしまった。
久しぶりに智也へに嫉妬も蘇った。
やっと俺達4人はいいバランスになってきたのに、瑛莉華へのキモチがまた沸々と沸き上がってはいけないと彼女を見ないように努力した。
 夜になって民宿の共同浴場で風呂を済ませて、安っぽい民宿の浴衣に身を包んだ瑛莉華もまた俺の決意を揺らがす。一緒に旅行に来たことをうれしく思うのと同時に後悔もしていた。
 夜遅くまで語り合おうといってコンビニで飲み物やお菓子を買いこんできたのだが、朝から海で遊んだので疲れ切った俺達は早々に寝ることにした。
4つの布団に忍、俺、智也、瑛莉華と横に並んだ。
寝てしまえば瑛莉華を見なくて済む、起きたらキモチを切り替えようと俺は目を閉じた。
 少しするとヒソヒソと話声が聞こえた。
「だめだよ、智也」
「いいじゃん、静かにヤろ」
「1日くらい我慢しなよぉ」
「瑛莉華の水着がエロイからいけないんだよ」
智也と瑛莉華は始めようとしている。俺は布団をかぶりその声を遮った。
別の事に思考を巡らせて寝てしまおうと必死に目をつぶった。
 しかし俺のその努力を忍が(さえぎ)った。
2人の声に触発されたのか、忍は俺の布団に侵入してきて俺のに触れた。今日1日巡らせていたいろいろな良からぬ妄想が脳裏をかすめ、俺は忍の手を拒めずに結局受け入れて俺達はいつも2人でしている秘め事を始めた。
「あっちの2人もシテんじゃん」
と、智也の声が聞こえて2人の話声はやんだ。瑛莉華も智也を受け入れたのだと察した。
 お互いの布が擦れる音だけが部屋に響いていた。
「スキだよ、瑛莉華」
智也が瑛莉華に言うと
「瑛莉華もスキ」
彼女もせつない声でそれに答える。
多分智也はわざと瑛莉華に言わせている。俺に聞かせる為に。『瑛莉華は俺のモノだ』と、俺に示す為に。今日1日、俺が瑛莉華にくぎ付けだったことにきっと気がついている。
「キモチいい?」と聞き「キモチイ……」と返事をさせる。
卑猥な質問を繰り返し、せつなくかわいい瑛莉華の声を俺に聞かせる。そしてそのせいで大胆になった瑛莉華は、小さく甘い声を出し続けた。俺の聴覚は奪われた。
 そして、視覚も奪われた。
何かを感じた俺はふと2人の方に目をやると、仰向けになって智也に上から押しつぶされている瑛莉華が目に入った。
彼女は忍の上にいる俺を見ている。オレンジ色の常夜灯に照らされらた瑛莉華のとろけそうな顔が俺の方を向いていた。
俺は忍の上にうつ伏せになって、左側にいる瑛莉華の方に顔を向けた。彼女はまだ俺を見ている。気のせいではない、俺と瑛莉華は見つめ合っている。
 瑛莉華は潤んだ大きな瞳で智也に感じながら俺を見つめている。彼女は左腕をまげて自分の顔の横でシーツを掴んでいたが、そのシーツを離して俺の方にゆっくりと手を近づけた。俺もバレないようにそっと彼女の方に手を滑らせた。指先と指先が触れた。
俺の動きと瑛莉華の声がリンクして、俺は瑛莉華と結ばれた錯覚に(おちい)った。俺は瑛莉華と見つめ合いながら忍の上で果てた。

 次の日の朝、誰も昨晩のできごとには触れなかった。
数日後、2人で過ごしている時に忍だけがその件について口を開いた。
「あの2人、すごかったね……。すごい気持ち良さそうだった」
確かに淡泊な俺達と違って、暗闇の中で卑猥な言葉を言い合い、愛を囁き合い、激しく乱れている様子は俺の視界にもうっすらと入っていた。
「愛し合ってるからかなぁ……」
せつなげに忍は言った。彼女もまだ忘れられない思いを引きずっているのだろうか。
それ以降、忍は大胆になった。
 そしてアノコトは誰も口にせず、変わらない高校生活を続けている。
もちろん瑛莉華も何も言わない。
あの時の瑛莉華は何を思っていたのだろうか。俺を何故見つめていたのだろうか。俺に差し出した手は何だったのだろうか。
俺は結局、瑛莉華のことを考え続けている。
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