第7話 親切な人族、とは

文字数 2,073文字

では、施療院に移ります。

施療院へと移ると、ペンネが出迎えてくれます。

「なんや、具合悪いんか? 冒険者言うても身体が資本なんは変わらんのやろ? 気を付けなあかんで」
「いや、そんなんではない。ちょいと話があってな」
「うん? わいに話し?」
「何々? 愛の告白はかわいこちゃんからだけしか受け付けへんで?」

(うわー…)

ちょっと引きます。

「寝言は寝て言え。ペンネから、リビィのことを聞いてな」
「あー、看板娘のリビィちゃんな!」
「施療院にいたみたいだが、行方不明らしいじゃないか」

「いくらリビィちゃんが可愛いいうても、手ぇ出したら絶対にあかんでぇ~って、まあ、確かにここにはおらんのやけどな……」

「はあ、どこにいったんやろなぁ。……まあ、わいかて今情報収集中や。続報をお楽しみに、ってとこやな」

「お前の方がリビィについて詳しいと聞いたんだが……」

「まあ、リビィちゃんとは長い付き合いやし? もちろんワイの方が詳しいに決まっとる。……でもな。なんであんさんに、うちの可愛い看板娘のリビィちゃんのこと教えなならんのや」

「はっ!?まさか、あんさんリビィちゃんを狙って……? あかん!? それはあかんで! 絶対に阻止させて頂きますぅ!!」

「いや……そいつがどんな奴が知らねぇし、俺そんなの嫌いだし」
(わー、話がこじれてるー)
「じゃあなんなん! もー、あんさんまどろっこしいわー!」
「お前が担当するとこを封印していたみたいに、そいつもどっか封印しているんじゃねーの?」
「んなあほなことあるかいな! リビィちゃんは温泉妖精やで!? 妖精王とちゃうんや。おそらくわいらと同じでバカンスを謳歌しているっちゅーとこやろ」
「ヴィレさん、ヴィレさん」(小声)
「ん? 何だ?(小声)」

「たぶんね、好感度が足りないと思うのですよ(ひそひそ)」

(あ、メタ発言って思ったらだめですよ?)

「はぁ? んなもん知らねぇよ。(小声)」
「見ず知らずの人、もしくはちょっとの恩人に、理由もなく大事な女の子……娘みたいに思っているのでしょうかね。だとしたら尚のこと、普通話さないんじゃないかなーってバナさんは思うのです」(ひそひそ)
「そういうもんなのか?(小声)」
「そういうものなのです(たぶん)」
「ふーん、そんなの知らねぇけど」

あ、ついでにヴィレさんに聞こえないような、消えそうな小声で

「……裏切るのも、託すのも、全部信用を得てからなのですよ」

とぽそっと呟きます。

その後何事もなかったかのように笑って

「ヴィレさんはツンツンしているので誤解されやすいのです。もっとこう、人当たりよいヴィレさんにモードチェンジした方がよいのですよ!」

「そーいうのはお前の担当だろうが」

「えー!? いつの間にそんな担当になったのですかー!?」

「なんなん? もー、用がないなら帰り―や」
「あ、あるよ、ありまーす! ねえ、ペンネさん!」
「何か困ってることとか、手伝えることとかないですかねー? 私たちちょっと妖精郷を探検しようと思っているのです!」
「……ん?」
「そう言う事なら、頼みたいことはあるにはあるんやけど」
「何だ?」
「グラタンさんからも猫さん探してくださいと言われているので、ついでにお任せアレなのですー!」
「まぁ、簡単に言うと、妖精探ししたかったんだよ……うん……(ボソッ)」
「えっ、最初からそう言えばよかったのでは!? さすがヴィレさん! 素直じゃない!!(大歓喜)」
「何でそんなに嬉しそうなんだよ……」
「いやー、ヴィレさんも観察していて面白いなーって(にこにこ)」
「……まあええか」

「<羊ヶ原>に人族の村があるんやけど、ここに戻る前に薬草をわけてほしいって言われてたんを忘れてたわ。悪いけど、届けてくれへんか?」

「薬草を取り返す次は届けるのか」
「あんさんらが来た時に摘んでた薬草は、その届ける為の薬草だったさかい」
「じゃあその時に頼めよ……」
「こっちの封印解いたらうっかり忘れてたっちゅーのは……秘密やで(ふいっ)」
「……まぁ良い、ちゃちゃっと届けてやるよ」

「んふふー、妖精郷にも人族がいるだなんて! どんな方がいるのか楽しみですねー!!」

「……人族に期待なんかすんなよ」
「妖精郷なのに、人族。妖精ではないのですよ!? 期待するなと言う方が無理なのですー!」
「さーてヴィレさん暗くなる前に行ってしまいましょう!!(わくわく)」
「あー…仕方ねぇよな、うん。(施療院行ったらすぐに帰るつもりだったのに)」
「あ、ついででええんやけどな」
「ん?」
「<のどかな果樹園>で<蜂蜜漬けの梨のクリームケーキ>を五個買ってきてほしいのと」
「えっ」所持金60G
「…は?」
「<水路のある花束>でこの花を手向けて欲しいのや」
「いやー、親切な人族の人でめっちゃ助かるわー!」

「ほな、よろしく!」と言って、

<薬草の入ったズタ袋>と<手向けの花>を渡して施療院から追い出されます。

「……親切な人族の人、だってよ。良かったな、俺たち親切らしいぜ?」

「……そ、うですね! 親切……親切? うん?」
「コレはアレだな。親切じゃなくて、都合の良い人だ」
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登場人物紹介

ヴィレーム・ペサディリャ

種族:ナイトメア 技能:拳闘士2斥候1

人間生まれのナイトメアの青年。
穢れ持ちの為に、生みの両親にも奴隷のように扱われる日々を送っていた。

ある日、村にナイトメアが紛れ込んでいると噂になり、住処を焼かれ命を狙われることに。
そのどさくさで両親も焼死してしまう。
その後、何とか貨物船の中に潜り込み、長い船旅を経て逃げ延びることに成功。
命からがら逃げ延びた先で行き倒れていたところを、リルドラケンに保護される。

以上の経緯から、人族に対し強い不信感を抱いている。
誰に対しても距離を置き、心を開こうとしない。

ナ・バナ

種族:ハイマン 技能:操霊2野伏1学者1

本の虫と言われる幼少期を過ごし、世界にはたくさんの知らないことに満ちている! と知識欲を満たすことを目的に、15歳の成人で旅に出た。
魔法文明期の頃、仲の良かった友人に裏切られ、とある施設に売られる。
その後なんらかの実験(人をハイマンへと変貌させるもの)を行われた際に長い眠りについた。
そして、現在。長い年月を得て意識を取り戻して目覚めた彼女は、ハイマンと変貌していた。
施設には他にも数名同志たるハイマンもいたが、持ち前の好奇心と知識欲が抑えられず、彼女は旅に出る。
新たな知識と知らぬ世界を求めて。

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