第2話 薄桃色の靄の先には
文字数 1,939文字
それは、ほんの数秒だったのか、数時間だったのか。
いつの間にか、薄桃色の靄に包まれている。
手を伸ばしても何も触れない。
草木を踏む感触も、土を踏む音も聞こえない。
まるで世界と切り離されたかのような感覚に貴方たちは陥っていた。
ふいに、一陣の風が通り過ぎた。
風があっという間に靄を吹き飛ばし、解離されていたかのような感覚も戻ってくる。
視界が開けたその先には、とても美しい広大な湖が広がっていた。
空の青を写し取ったように、青く澄んだ湖。
その湖面すれすれのところを、白い鳥が飛んでいる。
高く、険しく、切り立った断崖が、まるで大伸の掌のように湖を包み、その上からは幾筋もの滝がゴオゴオと音を響かせながら、絶え間なく流れ落ちている。
いつの間にか貴方たちは、断崖に囲まれた湖のほとり……唯一の岸辺に立っていたのだった。
「い、生きてますよー?! え、生きてますって! もしもーし、大丈夫です!?」
「うーん、全く見当はつかないのですが、どうやら屋外のようですねー?」
「そうですねー。遺跡に入って、ピンク色のもやもやーって……はっ、まさか!?」
「もしかして、ここが妖精郷なのでは!? なーんて」
んー、交易共通語なら、妖精郷じゃない可能性の方が高いかなー?
まあそううまくはいかないですよねー(しょんぼり)
貴方たちが振り返ると、黒い毛並みの猫がいました。
猫は、おおよそ1m程の身長で、二本の足で直立し、青い帽子を被っています。
<天の及ぶところその事如くに並ぶ者なき叡智と、地上のありとあらゆる財宝にもってしmても代え難い美貌とを兼ね備えたる偉大なる魔術師、すべての妖精たちにとっての妹にして姉、娘にして母、共にして恋人たる空前絶後の大天才妖精使い、神々に愛されし者、“妖精女王”アラマユ・ハメスガタラス様が、この世に生み出した至宝、荘厳にして優美なる妖精たちのための永遠の楽園――妖精郷>へ!」
「冗談なわけないじゃないですか。まごうことなき、本当ですって」
「僕の名前は、グラタン。アラマユ様から、この妖精郷の管理人を任されているケットシーだよ」
一応確認しますが、ケットシーの魔物知識判定振ります?
振るなら達成値は9です。
「『古代種妖精のケットシーである。人の手伝いをするのが好きで、困っている人がいたら手を貸してしまう。言語を覚える能力が高く、一度聴いたらすぐに覚えてしまう。猫型の妖精種である』だったかな、確かー」
「でもケットシーも妖精の種族ですよー? 関係ありありではー?」
そんな二人のやり取りを微笑ましそうに眺めていたグラタンでしたが、やがてポンと一つ手を打ちました。
「さてさて、お客さんが来たんなら、宿を再開しなきゃね」
と、グラタンは嬉しそうに笑ながら、湖に歩み寄り、帽子の下から取り出した小さな銀の鍵を湖に投げ入れました。
すると、どこからともなく、ゴーン、ゴーンと鐘の音が響き渡ります。
貴方たちが辺りを見渡すと四方の空に、鐘楼が浮かんでいるのが見えるのが分かります。
やがて鐘の音が鳴りやむと、二人の目の前の岸辺から湖の真ん中に向かって、真っすぐに伸びる石造りの橋が、水の底から浮かび上がってきました。
橋の先には白く塗られた壁に、薄桃色の屋根の小さな建物が現れます。
「あれが、妖精郷自慢の宿屋<七色猫のおもてなし亭>だよ」
「さあ、ついてきて。久しぶりのお客さんを歓迎して、美味しいお茶を御馳走するよ」
「ヴィレさん、どうしますー? 着いて行きますかー?」
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