第2話(3)チーズ牛丼でフラグ立ててそう

文字数 1,758文字

「ここだってさ……」

 凛と輝は牛丼チェーン店の前に立っている。

「女子大内にもこういう店があるとは知らなかったな……」

「お嬢様たちは街中の店には入り辛いってのがあるんじゃない?」

「それにしてもだな……まあいい、ここにいるのか?」

「えっと、『もしかしたらいるかもしれまへんな~』だって」

「なんだそれは……」

 輝が目を細める。

「こういうのを見ると、ザ・京都って感じがするよね~」

「何に京都を感じているんだ、お前は……」

「とりあえず入ろうか」

「あ、ま、待て……仕方ないな……」

 2人は店に入る。店員が挨拶してくる。

「いらっしゃいませ! 何名様ですか?」

「2名です」

「お好きな席にどうぞ~」

 店員が案内する。

「ボックス席に座ろうか」

「カウンター席で良いだろう……」

「いや、ここはボックス席が正解な気がするんだよね~」

 凛が顎に手を当てる。

「なんだ、正解って……」

「ボックス席でも良いよね?」

「何でもいい……」

 2人が向かい合って座る。店員が水を持ってくる。

「お冷になります。ご注文お決まりになりましたら、お声がけ下さい」

「あ、牛丼大盛を……」

「ちょっと待って、輝っち!」

「え?」

 凛が注文しようとした輝を制する。

「えっと……」

「すみません、決まったらお呼びします」

「は、はあ、失礼します……」

 店員がその場を離れる。輝が怪訝な目で凛を見つめる。

「……どういうつもりだ?」

「甘いよ」

「牛丼はどこもわりと甘口だろう」

「牛丼の話はしていないよ」

「何の話だ?」

 輝が首を捻る。

「心構えの話をしているんだよ」

「心構えだと?」

「うん……」

 凛が真面目な顔つきで頷く。

「……さっぱり分からんのだが」

 凛がテーブルに肘をつき、両手を顔の前で組んで呟く。

「……もう駆け引きは始まっているのだよ」

「なんのだ」

「その……エレクトロニックフォースのメンバーかもしれない人とのさ」

「駆け引きをする意味が分からん」

「信用出来るかどうかを見極めたいんでしょ」

「ふむ……」

「警戒心がかなり強い人みたいだね……」

「それならそもそも安易にDMに返信するべきではないと思うが……」

「輝っちから見てどう?」

「何を見てだ?」

 凛が人差し指を立てて、左右に振る。

「チッチッチッ……アタシが何も考えないでこのボックス席に座ったと思う?」

「思う」

「そ、即答⁉ そ、そうじゃなくてさ、この席からなら店内を見渡せるわけだよ。どう、『和歌山みかん大好きスナイパー』の目から見て怪しそうな人はいる?」

「変な二つ名を付けるな」

「みかん好きでしょ?」

「みかんは好きだが……問題がある」

「え? なに?」

「……店内を見渡せる奥の席は、今お前がどっかりと座ってしまっている。わたしは手前の席だからな、出入口すら見えんぞ」

「!」

 凛がハッとした表情になる。輝が戸惑う。

「いや、そんなリアクションをされてもだな……」

「しまった……」

「いや、席を変われば良いだろう」

「待った! ここで席替えをするのはあまりにも不自然だよ!」

「考えすぎだろう」

「他の手を考えなければ……」

「聞いていないな」

 輝が呆れる。しばらく間をおいてから凛が口を開く。

「……やっぱりさ」

「うん?」

「注文が関係あると思うんだよね」

「何を言っているんだ?」

「わざわざ牛丼屋さんを指定してきた意味もそこにあるはず……」

「はあ……」

「きっと、注文次第でフラグが立つんだよ!」

「本当に何を言っているんだ、お前は……」

 輝が困惑の目を向ける。凛がメニューとにらめっこする。

「この注文は大事だよ……」

「お店に迷惑だからな、さっさと食べて帰るぞ」

「う~ん……」

 凛が腕を組む。輝が手を上げて店員を呼ぶ。

「……すみません」

「は~い、只今! ……ご注文は?」

 席に来た店員が尋ねる。

「牛丼大盛一つ」

「かしこまりました」

「……う~ん」

「おい、早くしろ」

「……すみません、三色チーズ牛丼の特盛に温玉付きをお願いします」

「え⁉」

「かしこまりました。少々お待ちください!」

 店員が奥に向かう。しばらくして、注文した料理が届く。

「ゲーム、牛丼屋……これでいいはず……」

「何がどう良いんだ」

「これで信頼を得られたはずだよ」

「はっ、そんなわけあるか……」

「……エレクトロニックフォースの方々どすか?」

「ほ、本当に来た⁉」

 隣のボックス席から声が聞こえ、輝が驚く。
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