第四話

文字数 938文字

「おお!勇者様!」「勇者様、この国を頼みます」「勇者様、最高!」
 あれから数日、アナソルエ卿との剣の稽古を終えて、城下町に下りた2人は、群衆たちから熱烈な歓迎を受けた。
(それほど魔物の侵攻に困っているってことなのね)
 過剰すぎる歓迎にひきつった笑顔で望は群衆に答えた。一方のアンジェロはすっかり勇者気分で、ふんぞり返って歩いている。
 既に魔物の脅威にさらされてる村があるというラルル姫の情報で、2人はその村を目指すこととなった。徒歩では時間がかかるということで、ラルル姫が用意した、馬で。
「わ、私馬なんて乗ったことないわよ……」
 不安そうに馬に跨ると、白馬は心配ない、という風に顔を見上げ、綺麗な瞳で望を見つめた。
「こいつ、女の子には優しいんですよ……」
 ははは、と手綱を持った兵士が複雑そうに笑うと、白馬が尻尾で兵士の顔をはたいた。
「ふん、オレさまはケツが痛いのはごめんだね。自分で飛ぶさ!」
 忘れがちだが彼は天使だ。大きな光の翼を背に広げふわりと飛び上がると群衆からは「おぉお~!」「さすが勇者様」という歓声が上がる。
「いやぁ~どうもどうも」アンジェロは空中でふんぞり返って、群衆に手を振ってみせた。
(これは完全に調子に乗ってるわね……)
 望は呆れて頭を抱える。それを察したのか、白馬が尻尾でアンジェロの顔をはたいた。
「わぷっ!」
 まるで蚊のようにアンジェロは地面にはたき落された。
「へぇ、あなた、やるじゃない」
 望がニヤリと笑うと、白馬は当然、という風にブルルと鳴いてみせた。
「一応この子には"イクスト"って名前があるんでさァ。そう呼んでやってください」
「そう、イクスト。これからよろしくね」
 望が笑いかけると、イクストはそれにこたえるようにまたブルルと嘶いた。イクストのおかげで、馬に対する恐怖は不思議と薄れていた。
「それじゃあ勇者様御一行、行ってらっしゃいませ!」
 兵士が手綱を離すと、イクストは風を切って走り出した。ただ、あくまで望を振り落とさない程度に。
「おいてめー!置いてくんじゃねー!」
 地面に放っておかれていたアンジェロも、地面を蹴り、イクストに負けないスピードで飛び立った。
 こうして望とアンジェロの勇者としての旅が始まったのだった。

ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み