第一話

文字数 336文字


 指の間を、柔らかい風が抜けていくのを感じる。ひゅうひゅうという音が耳をくすぐる。
 (もち)はまるで空中に揺蕩っているような感覚を覚えていた。大の字に広げた身体の隙間を風が吹き抜けていく。

(心地いい――)
 目を瞑ったまま、吹き抜けていく風の爽やかさに頭の中が空っぽになる。

――おねがい。

(……?)

 風の中、どこからか声が聞こえた気がした。目を開けて見渡そうにも、瞼は開かず身体も自由が効かない。

――おねがい。

(……だれ?)

 頭の中で思い描くようにして、声の主に問いかけてみた。しかしその声は届いているのかいないのか、返事はちぐはぐなものだった。

――どうか、この、

(あなたは、いったい……)

――どうか、この世界を、……して……。

 その言葉を最後に、望の意識はまたぷつりと途切れた。
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