第10話 その2

文字数 547文字

 ほんとに片時も休ませてくれない。どうしてこうも次から次へと問題がたたみかけてくるのか。どうして一晩でいいからゆっくりさせてくれないのか。
「法事をやめるて? それは兄ちゃんの家に集まるのをやめるてゆうだけのこと? これからは外にいってご飯食べるとか――ちがうな。集まり自体をやめるて――そういうことやな」
 口ではショックを受け、寂しがってはいても、厚子は手をたたいて笑いそうなくらい大はしゃぎしている。分別がない子供ばかりのおままごとが法事とは聞いて呆れる。そもそも自分たちの関わりを絶つためのながい取り組みだったのだ。当事者たる一人一人の気持ちが、きちんと別れを果たすためには何よりも重要だからだ。それは印鑑よりも強力だ。
「でもな」と厚子が電話口で諭すように言った。「あんなお金かけてまでしんどいことしたないやん。姉ちゃんらがあちこち体悪なってんのに。今頃そんなんゆうて遅いぐらいやで」
 ――いやだいやだ、と崇宏はため息をついた。気持ちがすっかりふさいでしまい、家の中を移動するにも体力が削がれていくかんじだ。
 おじいさんのところへいってすべきことをしよう。何もしたくなくなる前に。伯母がさも残念そうに嘆き、それを母が信じて説得にあたる。このためにまた全員から電話がかかってくるにちがいない。
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