アイスの様に心は溶けぬとも
文字数 788文字
病院食に、小さなケーキならば出て来た。それは確かにケーキではあったが、デコレーションはおろか果物の類は使用されていない。この為、少年がその意味に気付くこともなかった。
そうして、午後になって数時間後、彼の元には知り合い達がやって来た。彼らは、それぞれにアイスで出来たケーキや個包装のお菓子を持っていた。
ベッドの少年が読書の為に使っていた簡易テーブルには、アイス製のケーキが置かれた。そのケーキには、少年の名前と誕生日を祝う言葉が書かれたチョコプレートが乗せられている。
無料塾の講師は、ケーキと少年が映る様に写真を撮った後で、紙製の平皿を少年に渡した。それから、ケーキを切り分ける為の小さなナイフを少年に渡す。
「主役は、好きな部分を好きなだけ取って食べる義務がある」
初めて聞いたルールに目を丸くしながらも、少年は手前にある部分のアイスを切り取り皿に置いた。それで終わろうとする少年に対し、講師は文字の書かれたチョコプレートを少年が取ったアイスの上に乗せる。
「この部分は絶対に主役のもの。拒否権はない」
一連のやりとりの間中、少年の担任教師は何も言わずに流れを見守っていた。少年の誕生日が何時かを伝えたのは他ならぬ担任であり、担任が相手では少年の緊張は簡単に解けないことを彼は知っていた。
それから、少年が切り取った後のアイスは、大人達がそれぞれに分けて食べた。
少年へ形の残る誕生日プレゼントは与えられ無かった。しかし、それ以外のプレゼントを少年は確かに受け取った。少年がこれから歩む道のりは長く厳しい。それだからこそ、この日は少年にとって忘れ難いものとなった。