犯した罪に釣り合う罰は

文字数 1,873文字

 少年の置かれた環境が幾らか改善していた頃、彼を産み落とした者への断罪は続いていた。罪人へ口からの栄養は与えられず、臓器を取り出した際の傷が塞がるよりも前に動画撮影は始まった。

「断罪チャンネルへようこそ」
 断罪人は、胸に手を当てて頭を下げた。そうしてから、断罪人はベッドに拘束された状態の罪人に目線を送る。
「今宵の断罪は、前回に引き続き子供を放置し続けた罪人へ向けて行います。そして、今回も断罪の為のゲストを招待しております」
 断罪人が言い終えると同時に、手術着姿のゲストが現れた。そのゲストは、番組進行の事など気にしていないのか、直ぐに手術を始めようとする。

「忙しい中、ゲストには無理を言って頼んでいますから、仕方のないことなのです」
 断罪人は言い、手術をサポートする為にラテックス製のグローブをはめた。それから、前回よりも長い時間を掛けて手術は行われた。今回の手術で取り出された臓器は、前回のそれと比べて大きかった。この為、その臓器は金属製の平らな器に乗せられる。
 切開部を医療用ホチキスで雑に縫い合わせた後、ゲストは何も語らずに画面から消えた。そのことで寄せられるコメントは増え、動画撮影者は笑みを浮かべる。
「さて、今回の断罪でこの罪人が子をなすことは不可能になった。もっとも、子をなしたところで世話をせぬなら、その行為に価値はあるのか甚だ疑問だが」
 断罪人は、取り出した臓器を見せるべきか視聴者に問うた。すると、その答えは意外なことに肯定と否定の意見がほぼ半々の結果となった。この為、アンケート結果を動画撮影者から知らされた断罪人は、その旨を視聴者に伝える。

「これ以降は、別動画で配信するとしよう。短い動画になるだろうが、興味のある方はどうぞお楽しみ下さい」
 断罪人は目を瞑り、頭を下げた。そうして、動画撮影は一旦終了する。
 その後、短い動画の為に撮影は再開する。その動画は取り出した臓器を紹介するものだったが、その臓器にはぼかし加工がなされていた。しかし、その臓器は断罪人の手によって感触や厚さ、指先で判定出来る情報が語られた。そのせいか、視聴者はコメントを投げるのも忘れてその説明に聞き入った。
「それでは、ここで断罪チャンネルぷらすを終わります」
 断罪人は、取り出した臓器の乗った器を持ったまま語った。そうして動画撮影は終わり、断罪人は持っていた器を手術器具と同じ場所へ置く。

「案外、需要は有るところには有るものだな」
 断罪人は取り出した臓器をクーラーボックスに入れ、手術器具を纏め始める。罪人と言えば、前回より麻酔の効きが良いのか、呼吸の為に胸部が上下する以外に体が動くことはない。
「そりゃ、この動画を観る為に課金する層だからね。あれが駄目な視聴者も居れば、興味のある視聴者だって居るでしょ」
 動画撮影者は、操作画面を眺めながら話した。そして、その画面を見ながら満足そうな笑みを浮かべる。その後、二人はそれぞれに後始末をして部屋を去った。二人は罪人が動かないままであっても、気にすることはない。

 断罪人は、罪人の元を訪れては世話をした。これまで、罪人に口からの栄養を与えてこなかった断罪人であったが、気持の変化があったのか温かな粥を差し出し始めた。とは言え、様々な苦痛を与えられてきた罪人が、直ぐに粥を口にすることは無かった。幾ら腹が減っていたとしても、罪人には警戒心の方が大きかった。
 しかし、回数を重ねる毎に罪人は差し出された温かな食物への要求に耐えられなくなり、粥を口に含んでしまう。一度口に含んでしまてからは、罪人は腹を満たす欲望に抗うことは出来なかった。粥に米以外の材料が混じり始めた時も、罪人は何の疑問を持たずに粥を啜った。その材料が細かく刻まれた、かつて自らの臓器であったものだと知るよしもなく。

 罪人の傷が塞がってきた頃、断罪人は新たな動きを見せた。先ずは、傷を塞いでいた医療用ホチキスを外し、その周囲をアルコールを含ませた脱脂綿で清めた。それから、彼は罪人の食事に睡眠導入剤を混入し眠らせる。断罪人は眠り始めた罪人の体を拭くと服を変え、その状態で罪人の細長い袋に詰めた。その後、断罪人は罪人を車に詰め込み、夜の登山道を進んだ。そうして、滑落しやすい場所まで罪人を運んだ後で、断罪人は罪人だけを崖の下に投げ捨てる。罪人は、落下の衝撃で低い声を漏らした。それが断末魔であるかは、断罪人には判らなかった。それでも、断罪人はその場から直ぐに立ち去った。まるで、罪人が生きた状態で発見されることはないと確信しているかの様に。
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登場人物紹介

少年

 ネグレクトを受けている小学生。物心付いた頃から放置されていた為に、その生活が「普通」になってしまっている。栄養を摂るのは殆ど給食から。しかし、その給食費も中々払えない為に、学校側はその情報を共有している。

 食事以外もほぼ放置されている為、衣服や靴、学校で必要となるものは必要最低限すら与えられていない。消耗品に関しては、学校側が貸すという体で使わせているが、それが少年の心を傷付けてもいる。

 担任を始めとして少年の家庭環境を注視しているが、児童相談所に報告するまでは出来ていない。

熊川:少年の担任

 季節感の無い着古した服を着続ける少年のことを心配している。給食費についても当然把握しているが、一人の生徒に専属で動くことも出来ずに悩んでいる。担任と言う立場から出来ることを考え、社会的法的にラインを越えぬよう少年を見守る。

鹿島:子供食堂の場を提供する神父

 慈愛を持って、教会の一室を子供食堂として提供する神父。無料塾の小部屋も提供している。子供食堂の料理も無料塾の講師もボランティアによるもので、神父が手を出すことは少ない。初めてやってきた子供には、人によってはウザがられる絡みをする。気まぐれに出没しては、ゆるい説教をかます。話し出すと長い。フリーダムながら、戦闘能力は高い。


蝶野:無料塾講師

 子供に勉強を教えるついでに、科学実験等に織り込んでおやつを提供していくスタンスのボランティア。ボランティア精神と言うよりは教えることを楽しんでいる。真面目に授業を受けない子供は追い出す。代わりに、学ぶ姿勢がある子供の学習環境は守る。

 おやつ材料の資金は、アグレッシブ勉強動画配信で稼いでいる。無料塾で作ったおやつを撮影してブログに記載し、アフィリエイトでも稼いでいる。怒らせると、とにかく怖い。

少年が運び込まれた先の医師

 診察能力が高く、治療能力にも長けている。医者としての使命を果たす志が高く、虐待を疑われる子供を診察した場合に、しかるべき場所へ通報することを厭わない。

 診察費の回収は専門の人に任せ、回収出来るかどうかは考えずに最高の医療を提供する。その分、回収する側からは面倒にも思われている。

少年の親権保持者達

 共に子供に対して無関心であり、金を手に入れてはギャンブルに使う者と心を異性に寄りかかることで満たす者に分かれる。そのどちらも、少年が起きている内は、殆ど家に寄りつかない。稀に少年に会うことがあれど、会話を交わすことは稀である。

 また、学校で必要な学用品購入費や給食費、少年の衣服の購入費どころか食費さえ出し渋っている。そのくせ、自分達には何処までも甘く、義務から逃げることが上手い。共に、払うべき税金や年金、保険料までも後回しにしてでも自らの欲求を優先するタイプ。

ハタケサン

 

教会の作物担当の人。

畑の手入れや果樹の手入れ、家禽の世話まで行う謎の人。

外に出ている時は、作業着に軍手を防塵マスクを身に着けている。

表には出てこないので、存在を認識している人はとても少ない。


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