4、走れ
文字数 1,445文字
幼い頃からテンに武芸を教え込んだのは、父であるコトともう一人、この男。
名前はサイ。
コトに剣を教えたのも彼であり、長年父と共にこの国を支えてきた兵団の重鎮である。
若い頃にはその剣技は広く知れ渡り、北方の帝国の兵士まで一目を置いていたと言われる。
だから、俺なんか探してる場合じゃなかったんだと、内心毒づく。
ハルさえ来なければ、今頃平和に寝ていられたのに……とは、不思議な事に思わなかった。
皆まで言わず、サイはただニコニコと笑った。
テンはバツが悪くなり、明後日に目を逸らした。
コトの息子、テン。この世で唯一の継承権を持つ者。
もう一度、テンは笑った。
言葉を飲み込み空を見上げる。
サイは眉を寄せる。
皆無。
サイがテンの視線を追って空に視線を走らせる。
だが、
――否、刹那に辛く吹いた風。
第三陣で初めて人が顔を上げる。
風の中に混ざりあうのは、間違いなく悲鳴。
唸り声を上げるのだ。
裂かれた空間が、踏みにじられて行くのだ。
大地に根付くすべての、この地を守る、精霊と呼ぶにはあまりにも恐れ多い小さき深き愛しき神々が。
走り出すサイとは、反対の空から、鉛の塊が姿を現す。
――風が吠えている。唱えよと、吠えている。
残りの意味は、