18、歌

文字数 525文字

 ――燃やしてしまおう。
 心に浮かんだ言葉に、テンはハッとした。
(今何を思った?)
 いや、そんな事よりも。
(俺は、笑っていた?)
 竜はテンを見向きもせず、要塞艇に向かって駆け行く。
 ハルを助けなければ――そう思った瞬間。
 要塞艇が火を噴いた。砲撃だ。

 竜目がけて放たれる。

 そしてその一瞬後。

 竜も炎を解き放った。

 それはこれまでで一番巨大な炎。

 二つの炎がぶつかった瞬間、辺りに飛び散ったのは閃光。
 焼け付くような、痛み。
「ハル、姫様ッ……!」

 衝撃に吹き飛ばされる。打ち付けた体が痛む。

 だがそれで、我に還る。

 ハルを救わなければならない。

 このまま行かせるわけにはいかない。

 砲撃は止まない。竜は天高く飛び上がった。
 ――この地を炎に。
「……ッ、ハルッ……!」
 ――すべてを炎に。
「……クソッ……!!」

 苦しい。

 頭が何度も打ち付けられるように痛む。

 心と体がついて行かない。

 知らずとテンは剣を振り回す。

「ウワアッァァァッァァァァァ――!!」
 ――大丈夫、大丈夫。
 ――闇を払え。
 ――すべてを焼き尽くして。
 ポツリと思った、たった一言。
 助けてくれ。

 ……その直後だった。

 そこにあるはずのない音を拾った。

 これは……歌だ。
 歌が聞こえる。
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登場人物紹介

テン(17歳)

 白き竜の騎士団総隊長コトの息子にして、その血を受け継ぐ者。
 宝刀・白の神剣を持って試練の旅に出るが、そこで重傷を負う。

ハル(15歳)

 【風の依代】王国の姫君。
 【謳い巫女】でもある。

コト(45歳)

 辺境の王国【風の依代】の、白き竜の騎士団総隊長。
 テンの父。

サイ(57歳)

 コトを支え、国を支えてきた剣士。
 テンの師であり、コトと共にテンを支えている。

ババ様

 ハルの祖母。
 国王の名代を務めている。

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