9、でも、剣が
文字数 1,158文字
感情に導かれるように。
感情を殺して。
何もかも、目を閉ざして。
昂る事は許されない。
悲しむ事も、怒る事も。
誰になんと言われても構わない。
そうしなければ、もう、生きていられない。
どこまでの感情が竜を呼び、どこまでの感情で自分は目を覚ましていると言えるのか。
足はいつも、宙を浮いているようだった。
無論、もどかしさもあった。
しかし――。
悪魔なのではないだろうか、と。
でも、剣が。
感情を殺さなければならない――そう思い続けてきたけれども。
自分の感情によって、誰かを巻き込む事はできないと。傷つける事があってはならないと。
その葛藤の中で。
しかし、完全に眠りに落ちるわけにはいかないと思い続けてきた最後の……唯一の想いは。
剣を。
宝刀を。
取り戻さなければ――。
風が巻き起こる。
竜が動きを変えたのだ。
物陰に隠れていたテンと目が合った。
竜はじっと、片方の目で彼を見た。
やがて一層の風が吹いたと思った直後。
竜は空へと舞い上がった。
去り行くのか。行ってしまうのか。
知らずとテンは、空に向かって手を伸ばしていた。
降ろした銀の腕の向こう側に見えたのは。
ただただ、広がる焼けた広場。
もはやそこに、動く者など、一人として存在していなかった。