0、プロローグ
文字数 778文字
漆黒の闇の中、ひとひら落ちる気配あり。
月の光も届かぬ深い森。
そこに突然、ひと際大きな地鳴りが響く。
頬を流れる何かを、苛立ちながら拭い取る。
それが汗であろうと血であろうとも、今この局面に変わりはない。
しかし、認めざるを得ない。
圧倒的すぎる力の差。
ゴォォォ――
生きて帰る――その言葉は闇の中に飲み込まれる。
目の前が真っ赤に染まる。
少年は必死に走る。
だが視界が悪い森は、取り囲むすべてが脅威に変わる。
足を取られ地面に転がり、枝に掠めて切った腕の痛みよりも、少年の思考を奪ったものは。
瞬間的に差し込んだ、月の光に映る竜の顔。
口が開くのを見たような、見なかったような。
ただ、次に感じたのは光。
……そして、
残った左腕で剣を探す。
額を流れる物をぬぐう腕は、もうない。
探し当てた剣を、左手で握り締める。
少年の中で何かがカチリとはまる。
刹那、少年は持っていた剣を渾身の限り振り抜いた。
刹那、少年は持っていた剣を渾身の限り振り抜いた。
ゴォォォォォォォ
竜の咆哮を聞きながら、少年の意識も遠のいていく。
消え行く意識の中で、最後の瞬間まで、生きては帰れぬ事をひたすら詫び続けた。