21、テンと竜
文字数 547文字
テンは変わったと、人は言う。
1年前の帝国の襲撃以来、テンは変わった。
試練の旅以前の彼に戻った――いや、それ以上に。
手紙が届いたのはその日の昼過ぎ。
読むなりテンは、
手紙にはこうあった。
帰ります、と。
叫び、テンは馬にまたがる。
【風】は、帝国の傘の下で舞う。
それでいいのだ。
王女じゃなくてもいいのだ。
王国などいらないのだ。
皆で喜びあう事ができるなら。
守りたい人が、あるならば。
――世は巡る。
駆け出した世界はどこまでも続いている。
心躍らせてももう、竜は現れない。
ただ、テンの脳裏に浮かぶ光景がある。
遥かなる無窮の空。
テンは思う。
その空に幸あれと。
自分はこの大地を行く。
懸命に、走り続けるから、と。
――響き合った心に、永遠の風が一陣。
そは永遠に、吹き続ける。
<了>