21、テンと竜

文字数 547文字

「テン様、西の区画の新しい図面が完成しました」
「警備隊長がぜひテン様にお会いしたいと申しておりますが」
「わかった、すぐに行く」
 テンは変わったと、人は言う。
 1年前の帝国の襲撃以来、テンは変わった。
 試練の旅以前の彼に戻った――いや、それ以上に。
「一人前の顔をしおって」
「まるで若き日のあなた様のようですな」
「俺はもっと謙虚で大人しかった」
「……ホホホ」
「……サイ、何か言いたそうだが」

 手紙が届いたのはその日の昼過ぎ。

 読むなりテンは、
「テン様!? どこへ行かれますか!?」
「親父に言っておいてくれ、あとは頼むと」

 手紙にはこうあった。

 帰ります、と。

「迎えに行く!! 祝いの宴の準備を!!!」
 叫び、テンは馬にまたがる。

 【風】は、帝国の傘の下で舞う。

 それでいいのだ。

 王女じゃなくてもいいのだ。

 王国などいらないのだ。

 皆で喜びあう事ができるなら。

 守りたい人が、あるならば。

 ――世は巡る。

 駆け出した世界はどこまでも続いている。

 心躍らせてももう、竜は現れない。

 ただ、テンの脳裏に浮かぶ光景がある。

 遥かなる無窮の空。

 テンは思う。

 その空に幸あれと。

 自分はこの大地を行く。
 懸命に、走り続けるから、と。




 ――響き合った心に、永遠の風が一陣。

 そは永遠に、吹き続ける。

  <了>
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登場人物紹介

テン(17歳)

 白き竜の騎士団総隊長コトの息子にして、その血を受け継ぐ者。
 宝刀・白の神剣を持って試練の旅に出るが、そこで重傷を負う。

ハル(15歳)

 【風の依代】王国の姫君。
 【謳い巫女】でもある。

コト(45歳)

 辺境の王国【風の依代】の、白き竜の騎士団総隊長。
 テンの父。

サイ(57歳)

 コトを支え、国を支えてきた剣士。
 テンの師であり、コトと共にテンを支えている。

ババ様

 ハルの祖母。
 国王の名代を務めている。

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