第5話 川辺紗耶

文字数 661文字

「わっびっくりした!」姉が突然声を上げた。3つ上の姉・優希は昔から抜けている所がある。机の角にでも足をぶつけたのだろうか。

それにしても突然引っ越すと言い出し家まで決めているにも関わらず引っ越し業者を手配していないとはやはり抜けている。実家暮らしだったとは言え頼んだ方が楽だろう。そう考えるのも無理はなかった。優希と紗耶の車はどちらも軽自動車だ。載せる荷物にも限度がある2台で実家と賃貸を2、3往復しながら運んでいた。紗耶はせっかくの休日が引っ越しの手伝いで潰れてしまったのだ。しかも今日はカラッと晴れていて暑い。

姉はカーテンをやはり買っていなかった。彼氏と別れてから突然手が止まり考え込む事が多くなった。これから一人で暮らしていくと言い出したから未練がなくなったのかと思っていたが違うようだ。3年も付き合って突然メールで別れを告げる様な男のどこがいいのだろうか。本人達にしか何があったのか分からないけれどそこまで執着する程の価値があるのだろうか。

姉は優しく素直な性格だからあの男に執着しなくても他にいくらでもいるだろう。「私なんか…」が姉の口癖だった。

なぜこんなにも自信がないのか。母が心配するのも無理はない。


「お姉ちゃんカーテン買いに行こう、その後どこかでご飯食べよう。私が奢るからさ、引っ越し祝いよ。いつかお礼は倍返しで待ってるわよ。」とふざけながら窓の前で考え込んでいる優希に言った。

太陽の光が部屋の中を照らしていた。足元に落ちていたタコのぬいぐるみを運んだ机の上置いて紗耶は部屋を出た。

姉が早く立ち直れます様にーー
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登場人物紹介

川辺優希

主人公 29歳の女性。実家で暮らしている。

タコ

妹に貰った大阪土産のぬいぐるみ。

3年間付き合ったが振られた。

その後音信不通。

優希の母

川辺紗耶

優希の妹 家族思い。

優希の父

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