第16話

文字数 734文字

その夜。

僕はそろそろ寝ようかと、部屋の明かりを薄暗くし、

ベッドの上に寝転がった。


「……なんか今日、声優になろうと思ったきっかけとか……

思い出したかも……」

僕はテーブルの上にいるヒカリに向かって、ぽつりとつぶやいた。


「……へえ……?」


「妹が昔、病弱でさ。

ベッドでつまらなそうにしてたとき、

本を読んであげたりしてたんだ。

しまいにはセリフ覚えて身振り手振り

一人芝居なんか始めちゃったりしてさ、

そしたら、すっごい喜んでくれて……


……その笑顔がさ……嬉しかったんだ。


……最近は、自分がいっぱいいっぱいで、

『楽しんでもらいたい』って気持ち……忘れてたかも……」


「ん、そうか」


「あはは……。ありがと、聞いてくれて。

……なんでも話せる人がいるっていいなあ……」

「……んん?なんだお前。友達いねーの?」

「……友達はいるよ。

でもさ、声優志望の友達には弱気なところみせられないし、

学生時代の友達は、みんな良い会社に正社員で就職してたりさ。

少し、距離をおいちゃったのかな……」

「……まあ、分からなくもないな……。


まあしかし、会ったばかりの頃は、

オーラがないとかなんとか言ったけど

最近のお前は、少し輝いてきたよな」

「えっ……?本当……?」

「ああ」


(ヒカリが……こんな風に言ってくれるなんて……)


「大丈夫だよ。お前、いいものもってるよ」

「……っ……」


僕の瞳から思わず涙がこぼれおちた。


「う、うわ……泣いてんのお前……」


……そっか……努力も行動力も勇気も……

そして自分らしさを追求することも大事だけれど……

もう1つ……大事なものがあるのかもしれない……


それは、”自分のことを信じてくれる”誰か……


人は……やっぱり1人じゃ生きていけない……

甘いのかもしれないけれど、

僕はこの時……そう思ったんだ……。
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登場人物紹介

来海ユキト


声優のたまご。23歳

上条ヒカリ


ユキトの憧れの声優。

ハピラビ


ハッピーラビット。幸せを呼ぶうさぎ。


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