03_マイク

文字数 824文字

博士がひとつの発明品を完成させた。
発明品とは、マイクである。それも普通のマイクではない。50000km先の音まで拾うことが出来るのだ。
「これはすごいぞ!しかし、何に使えばいいのやら。盗聴などに使うのは良いことではないしな。」
考え込む博士のとなり。テレビからニュースが流れてくる。
「X市の小学生がいじめを理由に自殺をした件で...」

後日博士はタイムマシンのレンタル業者に訪れていた。
「このマイクを人工衛星に取り付けるのです。そしてこの高性能マイクによって地球上で飛び交うありとあらゆる言葉や音を収音します。それをコンピュータによって解読、分析。危ない言葉や表現、人の嫌がっている声を察知した場合、その音がする現場を公的機関に送信。その場にすぐ警察などの防犯チームが駆けつける。いじめの防止や防犯に役立つという算段です。」
「...なるほど。ご熱意あるお話ありがとうございます。ではそのマイクが人工衛星に搭載された未来をご覧になるということでよろしければ、サインをお願いいたします。」
受付がタイムマシンレンタルの申し込み書類を机に出すと、博士はサインを書いた。
「さあ、嫌な気分の無い世界を見られるかな」
時空移動用のハッチに博士が乗り込むと、その扉が閉じた。

数秒気絶したような感覚の後、博士は我に返った。
見渡す世界は穏やかだった。
博士はまず電気量販店に向かった。テレビのニュースを確認するためである。
いじめや犯罪のニュースは一つとして流れてこない。
博士は安堵する。しかしそれと同時に、妙なもやもやを感じた。博士は通りすがりの店員に尋ねる。
「すみませんが、街に幼い子どもの姿が見当たりませんね。」
店員は笑いながら答える。
「冗談はよしてください。前代未聞の少子化ですよ。数年前に飛ばされた人工衛星のせいじゃないですか。」
戸惑う博士のとなりで、テレビのニュースが続いている。
「深夜、男女が寝室で発する、『いやん』『ダメ』などの声を衛星が誤認してしまう件で...」
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登場人物紹介

作品内にはしばしばタイムマシンが出てきます。

このタイムマシンはTIME DELIVERY社という企業のものです。

企業は "時間で世の中の機会を平等にする" を目標に掲げており、アイコンの秤(はかり)が企業ロゴとなっています。

運営するサービスはタイムマシンのレンタルのほかに、過去・未来の食べ物や物品を現代にデリバリーする「タイムデリバリー」、昔写真に収め忘れた思い出を代行で撮影しに行く「ストロボ」などがあります。

そんな同社自体は特に作品内では語られません。

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