01_座布団運び

文字数 959文字

人件費削減のため、ほとんどの仕事がAIやロボットに取って代わられた。
そんな中、人間によって維持され、他の産業を尻目に人気がどんどん上昇している業界があった。落語界である。
落語のネタはAIにもコピー可能なものなので、早々に人間が不要になると悲観されていた。
だが、その予測と結果は反対となった。
同じ伝統ネタを落語家で共有し、出演者それぞれの感性で演じ分ける文化。
上手くやる日もあれば、ミスがでる時もある。
そんな人間由来のアナログな違いが、代わり映えのないデジタル自動化の時代にウケたのだ。
落語家が出演する某大喜利長寿番組の人気も落ちることなく、相変わらずテレビ番組の定番として君臨している。

「番組がこれだけの人気だから、一生食っていけるよ。楽勝なもんだ。座布団運んでりゃいいんだから。果たしてどんな豪勢な老後か楽しみだ。」
座布団運びのタレントがにんまりしながら話している。
「では、未来のご自分をご覧になるということでよろしければサインをおねがいいたします。」
受付がタイムマシンレンタルの申し込み書類を机に出すと、タレントはサインを書いた。
「じゃ、20年後に行ってきまーす」
時空移動用のハッチにタレントが乗り込むと、その扉が閉じた。

数秒気絶したような感覚の後、タレントは我に返った。
そこは、自分が出演している大喜利番組の観客席だった。
「さあそれでは、番組開始いたします!5秒前!4、3、2…」
舞台の下で番組ディレクターがカウントダウンすると、オープニングテーマが流れだした。
袖から落語家たちが順々に現れる。
その顔ぶれは、タイムマシンに乗ってくる前の時代と同じままだった。
歳を重ねて腰は曲がり、顔もシワだらけ。髪の毛は薄くなっている。
しかしながら出迎える観客の拍手は以前より増えたように感じた。
「ほー。みんなやってるんだなー笑 私もそこそこ人気があるかな?」
タレントは未来の自分が登場するその瞬間を待った。
落語家が全員出揃い、いよいよ座布団運びが出てくる番。
観客の拍手はさらに大きくなる。
現れたのは、背筋がまっすぐ、ツルツル頭。全身が真っ白のロボット。
「ダレデモデキルカンタンナウンパンサギョウ、オマカセアレ!フケナイ、ボケナイ、ジンケンヒカカラナイ、ペッパークンデース!」

タレント以外が笑った後、何事もなく大喜利は開始した。
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登場人物紹介

作品内にはしばしばタイムマシンが出てきます。

このタイムマシンはTIME DELIVERY社という企業のものです。

企業は "時間で世の中の機会を平等にする" を目標に掲げており、アイコンの秤(はかり)が企業ロゴとなっています。

運営するサービスはタイムマシンのレンタルのほかに、過去・未来の食べ物や物品を現代にデリバリーする「タイムデリバリー」、昔写真に収め忘れた思い出を代行で撮影しに行く「ストロボ」などがあります。

そんな同社自体は特に作品内では語られません。

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