02_オートメーション

文字数 1,042文字

とある一国の偉い男が研究所を訪れた。
「博士、ご無沙汰してます。すごい発明をされたと聞きまして。今度はどんなものをお作りに?」
偉い男が尋ねると、博士は得意げに答える。
「超高性能のAIとロボットを作りました。台数を増やしていけば、いずれ全ての産業を全てロボットにて自動化することができます。人類から労働がなくなり、誰ひとりとして働かなくてもよくなるでしょう。」
「すごいですねそれは。一度その未来を見学に行ってみます。」
興味が湧いた偉い男は、すぐにタイムマシンのレンタルサービスを予約した。
「もしも私の思った通りの世界だったら国家でこの技術を普及して下さい。是非人類みんなで幸せになりたい。」
博士がそう言うと、偉い男は軽く会釈をして研究所をあとにした。

「とても優秀な博士でしてね。それでいて善意的な発明をしてくれる。」
偉い男がタイムマシンのレンタル業者の席で話している。
「では、そのAIとロボットが普及した未来をご覧になるということでよろしければ、サインをお願いいたします。」
受付がタイムマシンレンタルの申し込み書類を机に出すと、偉い男はサインを書いた。
「見てみるとするか。」
時空移動用のハッチに偉い男が乗り込むと、その扉が閉じた。

数秒気絶したような感覚の後、偉い男は我に返った。
そこは、博士が言うとおりの世界だった。

ロボットが食料や日用品を作り、地球上ならどこへでもドローンや自動運転車で届けてくれる。
すべての工程はAIによって管理・保全されるので、人件費もかからない。
人類は生活に必要なものを家から出ることなく無料で手に入れることができるようになっていた。
戦争、差別、貧富、略奪、機会の不平等はなくなり、ひとりひとりが自分のしたいことに没頭できる夢のような世の中である。
その光景を目に焼き付けると、偉い男は元の時代へと帰還した。

「どう・・でしたか?未来は私の想像のようになっていましたか?」
博士はおそるおそる偉い男に尋ねた。
「ええ。見事に博士の想像通りでした。人類はとても快適な暮らしをしていましたよ。」
その返答を聞いて博士は笑みがこぼれた。
「しかし、この技術を広めるのは少し考えさせてください。」
偉い男は深くお辞儀をして研究所を出た。

博士には伝えなかったことがある。
無料をいいことに好き放題に食べて生活習慣病にかかる人がいたこと。
働かないのをいいことにゲームのし過ぎで目や腰を悪くする人がいたこと。
自分のことばかりを愛し、他人のことには関心を持たない人が増えてしまっていたこと、など。
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登場人物紹介

作品内にはしばしばタイムマシンが出てきます。

このタイムマシンはTIME DELIVERY社という企業のものです。

企業は "時間で世の中の機会を平等にする" を目標に掲げており、アイコンの秤(はかり)が企業ロゴとなっています。

運営するサービスはタイムマシンのレンタルのほかに、過去・未来の食べ物や物品を現代にデリバリーする「タイムデリバリー」、昔写真に収め忘れた思い出を代行で撮影しに行く「ストロボ」などがあります。

そんな同社自体は特に作品内では語られません。

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