第4話 テレビのニュース番組

文字数 1,854文字

 家に着くと鍵を開ける。
 他に誰もいないのだから、かける必要はないのかもしれない。

 でも、なんとなくかけている。
 家に入り、内側から鍵をかけ、チェーンをかける。

 ただ、なんとなく。
 家の中は安全だと思いたいからかもしれない。

 でも、この状態になって、危険を感じたことはない。
 ある日、起きたらこうなっていた。

 何事もなく、日々が過ぎる。
 朝起きて、ご飯を食べて、夜寝てをただ繰り返す。

 コンビニの袋をリビングへ持っていく。
 床や柱についた傷は、覚えがある自分の家。

 ずっと暮らした家だった。
 慣れ親しんだ場所。

 リビングのテレビの前のテーブルに袋を置く。
 テレビをつけるとニュースをやっていた。

「おはようございます。今日のニュースです」
 ちょうど始まったところだった。有名なアナウンサーがしゃべっている。

 字幕には6月13日(水)という文字。
 毎日毎日、同じニュースが流れている。

 一言一句(いちごんいっく)昨日と同じニュース。
 どのチャンネルも昨日と同じ。

 時間が戻ってタイムリープを繰り返しているのではなくて、時間は進んでいるのにテレビは同じ。たぶん、録画した番組を24時間繰り返し流しているだけだろう。

 はじめはパニックになった。
 少し時間を置けば直るかと思ったら直らなかった。

 冷静になって、どうしたいいか考えてもアイディアは浮かんでこない。
 だから、以前録画したドラマを観ている。ブルーレイの電源を入れ、観ていなかったドラマを観る。

 パソコンはあるけれど、ネットはつながらない。
 ブラウザを開いても『ネットワークに接続していません』の文字が出るだけ。どこにも誰にもつながっていない。

 時計もおかしくなっていて、電源を切ると2000年の1月1日になってしまう。つけっぱなしにしていても、いつの間にか切れていて2000年の1月1日になっている。

 アナログの腕時計は使えた。
 でも、時間はわかっても、何日過ぎたかはわからない。

 だから、この状況が何日続いているのかわからない。
 もしかすると年単位なのかもしれない。

 だからワープロソフトを開いて日記を書いている。
 備忘録くらいにしかならないのかもしれない。

 でも、それすら確かではない。
 書いた数をかぞえれば、過ぎた日数がわかるのではないかとも思ったが、昨日書いたはずの物が消えていたり、書いた覚えのない物があったりもする。

 だんだん、それを自分が書いたのかどうかもわからなくなってきた。

 パソコンに書いているのが良くないのかもしれない。
 紙に書いた方がいいのかもしれない。気が向いたらコンビニではなく文房具屋に行ってみよう。

 電気がいつまで通っているのかわからないし。
 停電になったら怖いかもしれない。

 でも、怖いのかもしれないが、どうしようもないので、ドラマを観ながらスナック菓子を食べる。それまでと変わらない。

 すべてが用意されていて、生きることができる。
 でも、喉がイガイガする。

 朝の埃のせいだろうか?
 埃っぽくて、イガイガしていた。

 風邪かもしれない。
 コンビニに風邪薬があったはず。薬が置いてあるのも見ていた。

 また出ていくのもおっくうだ。一日に二度もコンビニに行きたくない。コンビニに依存したくない。もう十分、依存しているのかもしれないけれど、少しでも行く回数を減らしたい。

 ふと、野菜ジュースを買っていたことを思い出す。
 白い袋から、パックに入った野菜ジュースを出して飲む。

 喉のイガイガが治ったような気がした。
 風邪になったら、病気になったら誰が診てくれるのだろう。

 病院に行って、医者はいるのだろうか?
 目を閉じて、少し眠って、次に目を覚ましたら以前のような世界に戻っているのかもしれない。

 これは夢なのかもしれない。
 人込みが嫌いで、全ての人間がいなくなればいいと思っていたから、こんなことになったのだろうか?

 たった一人だけの世界。
 何をするにも自由で、何をするにも邪魔されない。

 昔の自分なら、理想の世界だと言うかもしれない。
 否、今の自分も、理想の世界だと思っているかもしれない。

 本当に?

 少しだけ眠ろう。
 お腹が満足したためか、睡魔が襲ってきた。

 目を閉じて、机にうつ伏せる。
 ほんの少しだけ。

 眠ったら……
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