第6話 模様替えされたコンビニ

文字数 1,209文字

 けっきょく、まっすぐいつものコンビニに来た。
 遠回りは帰りにしよう。

 自動ドアが開いて、中に入る。
 いつも通りに店員はいない。他に人もいない。

 野菜ジュースが置いてある棚に向かう。
 行く途中、少しだけ配置が変わっていることに気づく。

 それまでなかった冷蔵コーナーができていて、生きた野菜が置いてあった。
 サラダは好きではないが嫌いでもない。

 久しぶりに見るグリーンに手が伸びる。
 パックに入った野菜サラダ。ドレッシングもついている。

 カットしたトマトにパプリカらしき細長い切れ端。
 サラダだ。ドレッシングはイタリアンと書いてあり半透明だった。

 買い物かごを持ってきて、中に入れる。
 いちおう、野菜ジュースも取りに行く。

 朝に取った分の補充はしてあった。取った分のスペースがなくなっていたからそうだと思う。野菜ジュースも買い物かごに入れ、店内を歩いて確認する。カップ麺もプリンもお菓子も炭酸飲料も新しく補充されていた。

 それだけ確認して日用品が置いてあるところに行き、日記帳を探すがなかった。
 無地のノートはある。買い物かごを置いて手に取る。

 薄い青の表紙。
 ぱらぱらとページをめくる。何の変哲もないノート。

 少し考えて買い物かごに入れた。
 欲しいのは日記帳だった。でも、代用品にはなる。

 そしてレジへ向かう。
 レジの前の千円がなくなっていた。

 持って行った何者かは、価値がわかっているのだろうか?
 ポケットから財布を出し、また千円をレジに置く。

 誰が持って行くのかわからないけれど。

 レジの机の白いビニール袋の束から一枚白いビニール袋を取り、買い物かごの中の物を入れる。そして、なんとなく視線を上げて、レジの奥を見た。

 この奥に、誰かいるのだろうか?

 ちょっと押せば行けそうな、腰くらいの高さの扉。
 この向こうに、物を補充して棚の配置を変えた誰かがいるのかもしれない。

 ほんの少しの距離だった。
 扉と言うのも大げさな、低いただの板切れのような扉。

 それに手を伸ばす。
 手が届き、ちょっと押して、開かなかった。

 後ろから鍵のような物がついているのかもしれない。
 そんな物はついていなくて、ただもう少し力を入れるだけで開くのかもしれない。

 でも、押すのをやめた。
 今のままでも生きていける。

 中を知らなくても困らない。確認して、知らなくていいことを知ってしまったら、いままでの生活が崩れてしまうかもしれない。

 もしかすると、それが嫌なのかもしれない。
 伸ばした手を電気ポットの方に移動させる。

 カップではなく紙コップにコーヒーをいれて、砂糖とミルクを入れて、プラスチックの蓋をする。

 白い袋を右手で持ち、左手にコーヒーを持ってコンビニを出た。
 少し遠回りをしてどこかで飲んで帰ろう。

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