第3話

文字数 1,045文字

「二回戦は、半(ハン)バーグ、ちょうど食べましょう!」
 コガネムシ宮田の合図で、またもやテーブルが運ばれて来た。今度は空の皿だけが並べられている。その横の小さめのテーブルには、湯気を立てたハンバーグが大量に盛られていた。
「成人男性が一日に必要なカロリーは、およそ二千五百キロカロリー。そこで八人の皆さんには、あそこのハンバーグを好きなだけ食べて、半分の千二百五十キロカロリーを目指してもらいます。決勝戦に残るのは、半分の四名です!」
「今までそんなこと意識してハンバーグ食べた事無いですよ」またも同じ文句を垂れる段田。
「それもみんな一緒や」それに応える宮田。さっきと同じ会話を繰り返して笑いを取るという、テンドンと呼ばれるお笑いテクニックの一つだ。
「宮田さん、ヒントくださいよ」甘えた声を出しながら、ちぐタンが手を上げた。とてもアドリブとは思えないので、彼女にだけは事前に台本が渡されていたに相違ない。
「ヒント? しゃあないな、じゃあ今回だけ特別やぞ。ええか、しっかり聞けや。このハンバーグ一個はな、ミネソタピザの特製てりやきスペシャルのMサイズのワンピース分と同じカロリーや」
「そんなの分かるかい!」ツッコむタイミングもなれたもの。段田はみっちり仕事をこなす。
「それではお食べください」とホイッスルが鳴った。
 それとともに皿を持つと、ハンバーグの前に立った。よく見ると、それは通常のサイズより二回りほど小ぶりで、お弁当のおかずとしてよく見る冷凍食品のやつだった。
 普段からカロリーなんて全く意識してない段田にとって、千二百五十キロカロリーがどれだけのものか見当もつかない。他の挑戦者たちも、迷いを隠せないでいた。
 そんな中、ちぐタンはいち早くハンバーグを皿に盛り、テーブルに戻るや、笑顔で口に頬張った。アイドルだけに、カロリーには詳しいに違いない。
 取りあえず五個ほど皿に乗せ、段田は自分の席に腰を落とす。
 それぞれの席の間には仕切りがあり、他の分量が見えない構造になっていた。段田は調整を繰り返し、最終的に七個半ほど胃袋に収めたところで箸を置いた。

 やがて結果が発表され、段田は三番目に名前が呼ばれ、それに安藤アンも続く。だが、意外にも錦織千草の名は、最後まで呼ばれることがなかった。
「えー! どうして? 私、自信あったのに~」
「残念やったな。お前、ちょっと食い過ぎたんやで。意地汚いのお」宮田の毒舌に、ちぐタンは「えへ、バレちゃいました?」と、芸人さながらの返しを行い、ひと笑い起きた。
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